【安岡正篤】王道の研究
著者:安岡正篤
出版社:致知出版社
「人間が歩むべき王道とは何か」を論じた、安岡正篤渾身の力作である。帝王学の真髄がまとめられ、多くの政財界のリーダーたちに影響を与えてきた。
「東洋政治哲学」という副題がついており、孔子とか司馬遷とか唐の太宗とか足利尊氏とか徳川光圀といった名前が綺羅星のごとく出てくる。しかし、登場人物は東洋に限らない。プラトンやアリストテレスからダンテ、マキャベリ、ホッブス、ルソー、さらにはハイデッガーまで・・・西洋の知の巨人たちさえも総動員して東洋の政治哲学を論じる、この贅沢さ!この博覧強記!まさに稀代の碩学・安岡正篤ここにあり、といった感想を持った。
特にわたしは、第一編「政治汎論」の第三章「政治における秩序と生動~礼楽について」を興味深く読んだ。日頃から「礼楽(れいがく)」というものに関心があったからだ。
「礼」の重要性を唱えた孔子はまた、大の音楽好きでもあった。「楽は同を統べ、礼は異を弁(わか)つ」という言葉がある。楽すなわち音楽は、人々を和同させ統一させる性質を持ち、礼は、人々の間のけじめと区別を明らかにする。つまり、師弟の別、親子の別というように礼がいたるところで区別をつけるのに対して、音楽には身分、年齢、時空を超えて人をひとつにする力があるのだ。
安岡正篤は本書で、リーダーにとって「礼楽」がいかに必要であるかを喝破している。多くの文献に目を通したが、日本人が書いたものの中で最高の礼楽論ではないかと思う。