【ドラッカー】ポスト資本主義社会
訳:上田惇生 + 佐々木実智男 + 田代正美
出版社:ダイヤモンド社
「21世紀の組織と人間はどう変わるか」をサブタイトルとする。『断絶の時代』がはじめて明らかにしてきた潮流は、われわれが生きている先進国においては、すでに支配的な現実となっている。すなわち、同書は分析であり、描写であり、診断だったとドラッカーは述べる。しかし本書は、行動への呼びかけであり、彼の最高傑作にして遺作である『ネクスト・ソサエティ』の先駆けとなる本である。
日本を今日のような経済大国に導いた経済と産業の力は、まさに工業化時代において行なうべきことを、優れた規律と一貫性と卓越性のもとに行なった結果、手にすることができたものである。そしてそのゆえに、新しい時代、すなわちポスト工業化の時代、ポスト社会主義の時代、ポスト資本主義の時代が要求するものは、特に日本に対して厳しいものとなる。
今や、われわれは、きわめて多くの分野において、すなわち事業活動、経済、企業組織、労働、情報、政治、政治体制、教育などの分野において、まったく新たに考え直さなければならなくなっている。
18世紀後半以降の250年間、資本主義が社会の支配的な現実だった。そして最近の一00年間、マルクス主義が社会の支配的なイデオロギーだった。しかし今、資本主義とマルクス主義のいずれもが、急速に、きわめて異質な新しい社会にとって代わられつつある。その新しい社会、すでに到来しているその社会こそ、ポスト資本主義社会である。
このポスト資本主義社会もまた、経済活動を調整する実験済みのメカニズムとして、自由市場を利用する。ポスト資本主義社会は、「反資本主義社会」ではない。「非資本主義社会」でさえない。
資本主義の主要機関は生き残る。銀行をはじめとするいくつかの機関も、これまでとは異なる役割を担うようになるかもしれないが、生き残る。しかし、ポスト資本主義社会においては、社会の重心、社会の構造、社会の力学、そして社会の階層、社会の問題は、過去250年間を支配し、政党、社会勢力、社会的価値観、個人的コミットメント、政治的コミットメントを形成してきたものとは異なったものとなる。
また本書は、私兵の復活としてのテロの脅威への対処を訴えたが、世はそれを無視した。その後、ドラッカーの不安は2001年9月11日に現実のものとなった。