【人間学】王陽明と儒教
著者:井上新甫
出版社:致知出版社
儒教とは何か。著者は言う。「どう生きるか」の学問である。どう生きるかとは、どう生きがいのある人生を送るかであり、そのための教えである、と。その儒教を哲学にまで昇華させたのが明の王陽明であり、彼の学問を陽明学と呼ぶ。
孔子の没後、本来の精神である「実践」から遠のくばかりであった儒教に新たな血潮をたぎらせ、生きた学問として登場させた人物こそが王陽明である。「実践」ほど美しくて華やかなものはない。それゆえ、著者は陽明学を「儒教の花」と表現したのである。その花は幕末の志士たちに明治維新という偉業を成し遂げさせた。
陽明学といえば、「知行合一(ちこうごういつ)」があまりにも有名だが、この言葉は世間でいう「有言実行」とか「言行一致」と混同されやすい。しかし、本当の「知行合一」とは、知ることと行うことを二分してはならないということだ。知行はあくまで一体のものであり、紙の表裏のようなものなのだ。
陽明学と神道の共通点を論じた最終部分も興味深い。神道も陽明学も理屈を嫌う。神ながらの「神」と「産霊(むすび)」は、儒教でいう「天」と「造化」に対比される。そして、神道が重んじる「清明心」や「まこと」は王陽明の「知行合一」を想起させる。著者いわく、陽明学は日本人の情感に合うのである。
わたしは、これほど、わかりやすくて面白い陽明学の入門書を他に知らない。