【安岡正篤】照心語録
著者:安岡正篤
出版社:致知出版社
200本におよぶ安岡正篤の講演テープの中から名言を集めたものである。わたしが特に好きな言葉をいくつか抜書きしてみよう。
「孔子は多く“敬”を説いたが、孟子は“恥”を力説した。人間は恥ずる心を養いさえすれば、どうにか救われる。だがそれを失うと、人格として致命的な欠陥であることを知らねばならない」
「人間の道において、いかに善を為すかということよりも、いかに善であるかということの方が本質的である。善を為すのは良いことに相違ないが、往々為にする所の手段に堕し易く、それでは道業とは言い難い。善を為すことよりも、自己の実在を善にすることが根本である」
「人生は複雑な矛盾から成り立っている、この限りない矛盾の統一が人生だといってもよい。そして人間の現実生活を根本から動かす功利・成功・時代の風潮という三つの問題も、矛盾そのものであるために、人々は戸惑い、失敗し易い」
いずれも人間学の根本を押さえた名言ばかりだが、最後には次のような言葉が出てくる。
「人類滅亡後、何が地球を支配するかという議論の起こったことがある。猫だという説がある。生物は文明化すると文弱になって滅ぶが、猫だけはいくら優生学的に手を加えても二代三代になるとヒョイともとの原種にもどってしまい、決していわゆる文明族にならない。だから残るだろうというのだが、実に面白い話だと思う」
これほど安岡正篤という人の思想の柔らかさ、好奇心、スケールの大きさを示す言葉はないと思う。わたしの一番好きな言葉である。