【安岡正篤】人物を修める 東洋思想十講
著者:安岡正篤
出版社:致知出版社
非常に読みやすく、面白い。安岡正篤を初めて読む人には、うってつけの入門書である。
仏教、儒教、道教などの東洋思想が持つ豊世界を見事に描き出しているのみならず、この本には会社の朝礼とかスピーチとかでもすぐに使えるエピソードが豊富に詰まっている。
たとえば、人はなぜ礼をするのか。頭を下げて礼をするのは「相手の人のためにするのだ」と大部分の人は思っている。しかし、それは大違いであるという。礼というものは、相手にすると同時に、自らが自らに対してするというのが本義だというのだ。あるとき、一人の雲水が師家を訪ねて、礼拝した。師家いわく、「お前はなぜ礼拝をしたのか」「はい、御師家を敬ってしました」と答えたところ、「それは礼ではない。礼というものは、汝に依って我を礼し、我に依って汝を正す」と師は述べたという。つまり、自分を通して相手にお辞儀をするとともに、相手を通して自分が自分にお辞儀をする。これが礼というものだというのである。
わたしは、この「なぜ礼をするのか」という話を社員の前で何度繰り返したか憶えていないほどだ。その他にも、「事業から徳業へ」の進化とか、事態が転換する「シンギュラー・ポイント」とか、馬鹿殿や糠味噌女房に肯定的な意味を与える「愚」の思想とか、とにかく面白くて、人に話したくなる話題が満載だ。本書のおかげで、わたしは日本一、「安岡正篤」という名が日本一スピーチに登場する社長になった自信がある。