【おすすめ】やおよろず的
著者:玄侑宗久
出版社:四季社
本著は、玄侑宗久氏の著作、第2弾である。古来より、日本人が生きて行く上であみ出した智恵ともいうべき「やおよろず」。それは、それぞれの価値観を並列化させ、互いに認め合おうとするものである。日本人は、無節操と言われる程『宗教のいいとこ取り』をやるが、それも「やおよろず」的現象なのだと玄侑氏は説く。現代においては欧米独自の「UNITE(一つにする、統一する)」が主流となっている。そしてそれは、「やおよろず」とは最も対極的に位置し、物事を均一化させ、唯一化させ、その過程で他の存在を切り捨てていくことでもある。その結果、競争や経済原理を助長させ、様々な方面で深刻な歪みを生じているのである。ここで興味深いのは、玄侑氏が太陽と月の関係を、人間の合理性と非合理性の象徴とするところである。絶対無二で人間の合理性を象徴するのが太陽。そして合理性では決して理解できない、神秘的なもの、人間の無意識に作用する非合理性の象徴が月。本来日本人は月に近いのではないか。日本人の持つ「もののあはれ」や幽玄の美学、そうしたものは決して合理的思想とは相容れないものである。太陽だけでは行き詰まり、自分を見失う。そんな時、月の静かな目線が必要なのだと、玄侑氏は訴える。
日本人が、長い年月を重ねて育んできた平和的価値観「やおよろず」。もう一度、この大らかな価値観を取り戻し、肩の力を抜いて生きてみよう。