ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 #177

『夜明けのはざま』 町田そのこ著(ポプラ社)

 本屋大賞作家の最新作です。
 地方都市の寂れた町にある、家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」そこで働く葬祭ディレクターの佐久間真奈が主人公です。
 真奈は親友・なつめが書いた『閃光に焼かれた夏』という小説にインスパイアされて葬儀社に入社しました。主人公の母親の葬儀のシーンで、ぐっときたからでした。そんな佐久間の心情が以下のように書かれています。
 「最初は、勢いで就職したことを後悔した。遺体はいつでも綺麗なものではないし、必ず哀しみが付きまとっていた。死後二週間発見されずに腐乱してしまったおばあさん、遺族にすら見せられない損傷したからだになってしまったおじさん、死んでいることが不思議なくらいうつくしい女性もいたし、苦悶の表情を張り付けた男の子もいた。吐くほど嫌悪を覚えたことも、涙が止まらずに仕事に戻れなかったこともある。でも、辞めなかった」
 わたしは、葬儀業ほど世の中に必要な仕事はないと思っています。人々の「こころ」を守るためのハートフル・エッセンシャルワークであると誇りを抱いています。
 芥子実庵に入って3ヶ月の須田という青年が、目の前の葬儀の様子をぼんやりと眺めながら「豊かに生きたひとは、豊かに死ねる。貧しく生きたひとは、死すらも貧しい。豊かなひとは豊かに見送られ、貧しいひとは寂しく送られる。死はすべての生きものに平等だというけれど、しかし死が纏う衣には、確実に格差があるのだ」と思いを巡らす場面があり、考えさせられました。
 わたしは、「死は最大の平等である」と考えていますが、一方で、死に方は平等ではないとも思います。一般的な死因である病死の他にも、孤独死、自死、事故死、災害死、戦死、それから殺人の被害者となるなど、じつに、さまざまな死に方があります。いくら「死は不幸ではない」と考えるわたしでも、これらの死に方はできれば避けたいと思います。
 そして、できれば、これらの死に方を減らす努力をしたいとも思います。わたしは政治家でも警察でもありませんから、戦争や殺人をなくすことに関しては無力です。しかしながら、冠婚葬祭互助会の経営者として、孤独死や自死を少しでも減らすことはできると考えました。そこで、孤独死を減らすために「隣人祭り」の開催、自死を減らすために「グリーフケア」の推進に取り組んできました。
 本書は「死」をテーマにした傑作小説『ぎょらん』の続編ともいうべき内容で、わたしも非常に感動し、周囲の方々にも薦めています。世界広しといえど、葬儀やグリーフケアについての想いをここまで心ゆたかな物語に昇華できる作家は著者しかいません!