『出会いなおし』森絵都著(文藝春秋)
久々に小説の短編集を読みました。非常に新鮮で、心が洗われる思いがしました。著者は1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業。児童文学の世界で高く評価されたのち、2006年『風に舞い上がるビニールシート』で第135回直木賞を受賞しています。
本書には「出会いなおし」「カブとセロリと塩昆布サラダ」「ママ」「むすびめ」「テールライト」「青空」の6編が収められています。
表題作の「出会いなおし」は、意表を衝かれました。わたしは、これまで「出会い直し」という言葉をよく日常的に聞いていたのですが、それは、生者ー生者の関係と、生者ー死者との関係は異なるという意味においてです。
生きている間は仲が悪かった親子などでも、親が亡くなってからは、子には親への感謝の念しか残らないといいます。同じ相手であっても、亡くなってからは、これまでとは異なった存在として出会い直すというのです。
しかし、本書の「出会いなおし」はまったく違った内容でした。イラストレーターである主人公の女性と、編集者である男性との関係の変化を描いた物語です。関係といっても、男女関係ではありません。仕事を通しての一人の人間の生き様が変わるという物語です。
この短編小説を読んで、わたしはある編集者のことを連想しました。わたしは、大学卒業後、東京に本社のある広告代理店に努めていたのですが、先輩社員にUさんという人がいました。当時は出版事業部に所属されており、わたしの処女作『ハートフルに遊ぶ』をはじめ、多くの本を編集してくれました。
わたしが東京から九州に居を移したこともあって連絡が絶えていましたが、ふとUさんを思い出し、じつに十年ぶりに電話をしてみました。すると、その日が偶然にもUさんの退職の日だったのです。Uさんは、フリー編集者として独立することになっていたのです。
本当に縁というのは摩訶不思議ですが、その電話がきっかけで数日後に東京で再会し、それから数十冊の著書を世に問うことになったのでした。わたしは、Uさんとまさに「出会いなおし」をしたと思っています。
また、この夏、高校の同窓会を開きました。多くの高校の同級生と久々に再会しました。同窓会での再会というのは、まさに「出会いなおし」だと思いました。高校時代はウマが合わなかったり、喧嘩さえしたような相手と久々に会って意気投合し、今では仕事のパートナーになってもらったということも多々あります。思うに、すべての人との出会いは「縁」によるものであり、長い時間を経て、その「縁」が地下のマグマのように噴出することがあります。すべての出会いは、「出会いなおし」となる可能性があるのです。