『超訳 古事記』 鎌田東二著(ミシマ社)
2012年に編纂1300周年を迎える『古事記』は、『日本書紀』と並んで、日本人にとって最も重要な書物です。ともに日本の神話が記されており、両書を総称して「記紀(きき)」といい、その神話を総称して記紀神話と呼びます。
神話には、宇宙と自然の中における人間の位置や人生の意味が説かれています。真理を追求する哲学という営みも神話の中から誕生したとされています。
『古事記』は日本最古の歴史書であり、『日本書紀』は官撰による最古の歴史書とされます。記紀においては、神話が歴史の中に含められ、神々が姿を現して日本の国を整え、やがて人の歴史へと続く流れを一連の出来事として記載されています。
20世紀を代表する文化人類学者のレヴィ・ストロースは、世界各地に散在する神話の断片が『古事記』や『日本書紀』に網羅され集成されている点に注目しています。構造人類学を提唱した彼は、他の地域ではバラバラの断片になった形でしか見られないさまざまな神話的要素が日本ほどしっかりと組み上げられ、完璧な総合を示している例はないというのです。いわば、世界の神話の集大成が日本神話であると述べているわけです。
本書は、その『古事記』を、まったく新しい方法で超訳した本です。
とても読みやすいというか、不思議な言語感覚の上質のファンタジー作品を読んだような気がしました。
たとえば、最初の「体をもったふたりの神」の頁は次のようにはじまります。
「しゅうう…ふぅう…しゅう…ふぅう…しゅうう…ふぅう…しゅうう…ふぅう…風が吹く 風が吹く 天が 宙が 風を 吹く」
まるで、宮沢賢治の『風の又三郎』に出てくる「どっどど どどうど どどうど どどう」を思わせるダイナミックな風の響きに魅了されます。
著者は、京都大学こころの未来研究センターの教授で、わが国を代表する宗教哲学者として知られています。
日本人の「こころ」を知るためにも、ぜひ、お読み下さい。