『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』 千葉忠夫著(PHP新書)
デンマークといえば、ワールドカップで日本と対戦した記憶も新しいですね。最近、そのデンマークが非常に注目されていることをご存知ですか。
ここ数年で各種の調査で立て続けに「世界一幸福な国」となったからです。たとえば、「幸福度世界一(2005年オランダでの調査)」、「世界一幸せな国(06年英国レイセスター大学調査)」、「世界一格差のない国(08年OECD発表)」、「高齢になるほど幸福度が増す国(08年オックスフォード大学・将来の退職者調査)」といった具合です。
デンマークに関する本もたくさん出版されています。でも、本書がユニークな点は、デンマークが生んだ偉大な童話作家であるアンデルセンの童話にちなんで「幸福」を考察しているところです。
著者は、「アンデルセンの童話にはその時代の社会と、生活している人びとの喜怒哀楽、望ましい未来社会を実現するための願望が描かれています」と述べています。わたしも、『涙は世界で一番小さな海』(三五館)で、幸福の追求者としてのアンデルセンを取り上げ、「人魚姫」と「マッチ売りの少女」という二つのアンデルセン童話の深いメッセージを探りました。
本書では、「マッチ売りの少女」から貧困を、「はだかの王様」から政治を、「みにくいアヒルの子」から教育を、「赤い靴」から社会のあるべき姿を、「ナイチンゲール」から福祉を、「人魚姫」から自立することを、それぞれ考えています。童話から現代的なテーマを学ぶというのは、とても興味深い試みだと思います。
デンマークの人々の心にはアンデルセンが生きています。彼が描いた未来社会は、160年という年月をかけて幸福度世界一の国をつくりあげました。
では、そもそも「幸福な国」とは何か。それは「人々が生活しやすくて住みやすい国」であると、著者は答えます。
さらに、アンデルセンと並んでデンマークを代表する人物がいます。アンデルセンと同時代に活躍した哲学者のキルケゴールです。彼は単独者の主体性ことが真理であると説き、いわゆる個人主義、実存主義を唱えました。
わたしたちは、みな住みよい国を求めています。そして、この目的を達成するためには、国の構成員である国民一人ひとりが満足すべき状態になければならないというのです。
それにしても、「世界一幸福な国」の実現を支えているものが童話と哲学だったとは、なんだか、楽しくなってきますね。