『コロナ時代を生きるヒント』鎌田實著(潮出版社)
ここ最近、感染症に関する本や、コロナ後の世界に関する書籍を片っ端から読んでいるのですが、その中でも本書は出色の内容でした。コロナを抜きにしても名著です。
実際、本書はコロナ禍の中で書き下ろされた本ではなく、月刊「潮」2019年3月号から翌年5月号まで連載された「鎌田實の『輝く人生の終い方』」を加筆、修正、単行本化したものです。著者は1948年生まれ。諏訪中央病院名誉院長。世界の紛争地域等への医療支援を積極的に行い、地域と一体になった医療や食生活の改善・健康への意識改革を普及させる活動にも携わっているとか。
「はじめに」で、著者は「まるごと一冊『死』について書きたいと思った。死のことを書きながら、常に『いのち』の境界線に視線を向け、いまを生きるヒントを探しつづけた」と書いています。著書はこの本のために、新しい看取りの場所とされるホームホスピスを訪ねました。同じく多くの死を看取り、本人も末期がんを患った緩和ケアの専門医が、どのように『死』と向き合っているのかを聞きに行きました。また、被災地でなぜ幽霊が出るのか、幽霊が出ることの意味はなんなのか、など「死」の周辺についても取材しています。
他にも、ユタやノロが再注目されていると聞いて、シャーマニズムの存在意義を問うため、沖縄にも赴き、一方でターミナルケアについて研究しているカール・ベッカー教授とも語り合っています。70代になっても、日本中を歩いて、たくさんの学びを得ようとする著者の姿勢には頭が下がります。
新型コロナウイルスの世界的な感染爆発によって、わたしたちが暮らす世界は、あらゆる面で大きな転換期を迎えました。新型コロナは、さまざまな潜在的な課題を顕在化させたのです。コロナ後の世界は、新しい価値観や仕組みによって、コロナ以前の世界とはまったく別の世界になるはずだと推測する著者は「その時に、一人ひとりがきちんと『死』に向き合えるようになっているべきだと僕は考えている。もっと言えば、コロナ後の新たな世界は、もう一度『生』と『死』を捉え直すことから始めるべきなのではないだろうか」と述べます。
そして最後に、「『死』をやみくもに恐れる必要はない。遠ざける必要もない。『死』は人生にとって大切な一瞬であり、人生の大事業なのだ」と結論づけるのでした。
本書は全篇を通じて、共感し、賛同することばかりでした。「老い」に関する著者の本は何冊か読み、感銘も受けましたが、「死」に関する本書はより一層素晴らしい名著でした。ぜひ、著者にお会いして、「死」について語り合いたいです。