『エンタメビジネス全史』中山淳雄著(日経BP)
ジャニーズ、歌舞伎、宝塚、吉本興業・・・・・・。
昨年来、日本のエンタメビジネスを担ってきた名門に信じられないようなスキャンダルが続出し、芸能というジャンルそのものに激震が続いています。そんなこともあって、エンタメの歴史をおさらいしたいと思い、本書を読みました。「『IP先進国ニッポン』の誕生と構造」というサブタイトルがついています。
「興行」「映画」「音楽」「出版」「マンガ」「テレビ」「アニメ」「ゲーム」「スポーツ」の9大ジャンル別にこれまでの歩みを紹介していますが、これがとんでもない面白さでした。
著者は、エンタメ社会学者。1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。著書に『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』『エンタの巨匠』(以上、日経BP)など。
著者は、エンタメは誰かがトップダウンで始めたわけでもないのに、多様に自然発生し、ボトムアップでいつのまにか成立してしまっていることを指摘。一人の偶発的な成功が幾多の「二匹目のどじょう」を狙う野心的なクリエイターたちによって模倣され、それは次第に産業エンジンとなって全体をどんどん回転させ、やがていつしか歴史をもち、大企業が乱立する成熟期になると、環境の変化が脅威に変わり、専守防衛に徹するといいます。
鉄腕アトムからウルトラマンに至るまでロボットとSFが見せた「科学の未来」は、宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムとなって昇華され、玩具とアニメの一大ブームを引き起こしました。インベーダーゲームが日本全国に50万台という前代未聞の広がりを見せるのは「社会の退廃」とも揶揄されましたが、家庭用ゲームへ続くゲームのファーストジェネレーションを地固めし、電子大国日本が誇るべき一大産業を形成しました。
興味本位で非実質的なものだからこそ、エンタメ産業のビジネスモデル構築は非常に前衛的で実験的なのです。
「エンタメ産業のカナリア」の音楽産業が先行して受けたダメージを見ながら、他のエンタメ産業も、それ以外の重厚長大産業すらも、新時代の予兆を感じ取るのであるとして、著者は「エンタメは社会構造の入口/出口に恒常的に立ち現れる、『産業の様式美』である」と述べるのでした。
本書は、エンタメビジネスの各ジャンルを網羅して、その歴史をわかりやすく紹介してくれるエキサイティングな書でした。
著者が新日本プロレスの関係者でもあることから、プロレスや格闘技に関する内容が多かったことも嬉しかったです。こんなに刺激を受けた本はなかなかありません。帯にもあるように「とんでもない名著」でした!