ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第170回

『ウルトラマンの伝言』倉山満著(PHP新書)

 サブタイトルは「日本人の守るべき神話」です。著者は1973年、香川県生まれ。皇室史学者。1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。
 空想特撮映画「シン・ウルトラマン」が公開され、大ヒットを記録しました。一方で公開日の翌々日となる5月15日には、沖縄が日本に復帰して50年を迎えました。
「シン・ウルトラマン」にも登場するザラブ星人、メフィラス星人、そしてゼットンの物語を書いたのは、沖縄の出身で、名脚本家として知られる金城哲夫。彼は、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」など第1期ウルトラシリーズを企画し、文芸部長として今日に続くシリーズの基礎を作り上げた一人です。彼が書いた物語には、壮絶な戦争体験など沖縄人の想いが溢れています。
 沖縄には今でも米軍基地が存在しますが、ウルトラマン自体が米軍のような存在であったと考えられています。そもそも、ウルトラマンはなぜ、自分の星でもない地球のために戦ってくれたのか? その謎を突き詰めると、どうしても地球=日本、ウルトラマン=アメリカという構図が見えてきます。
「『ウルトラマン』の最終話が放映されたのは1967年4月7日。折しも小笠原諸島の日本復帰に向けての交渉がなされているときであり、当時の日本政府は沖縄返還も持ち掛けていた」という背景があったのです。
 ちなみに、「ウルトラマン」の後継番組は「ウルトラセブン」でした。今なお日本の特撮ドラマシリーズの最高傑作とされている番組です。俗説では、ウルトラセブンとは「アメリカ第七艦隊」の意味だと言われました。本当はウルトラ警備隊の「七番目の隊員」という意味ですが、脚本家の市川森一が「ウルトラセブンは第七艦隊」と広めてしまったようです。のちに、市川はNHKのテレビ番組「私が愛したウルトラセブン」のシナリオを書きましたが、劇中で金城哲夫に「ウルトラセブンは第七艦隊に見える」と言わせています。
 著者は、「日本は、巨大な力に苦しめられ続けてきた。闇に怯え、打ちひしがれ、夢や希望を無くしている時代だからこそ、民族の神話が必要なのではないか。本書は、過酷な現実を生きていくために、架空の物語からの伝言を読み解く書である。現実世界にウルトラマンはいない。だから、ウルトラマンを知らねばならない。そして、日本人としてウルトラマンを語ることに意義があるのではないか」と読者に訴えます。
 本書を読んで、子どもの頃に夢中になって観た「ウルトラシリーズ」が日本の防衛問題と密接に関わっていることを知るとともに、皇室史学者である著者の見識に唸りました。