『イエティ 雪男伝説を歩き明かす』ダニエル・C・テイラー著、森夏樹訳(青土社)
冬です。冬は寒いです。冬は雪が降ります。雪を見ると、わたしはいつも雪男のことを考えてしまいます。小学生のときに学校の図書室で『20世紀のなぞとふしぎ』庄司浅水著(偕成社)という本を読みました。今でいう「怪奇系児童書」でしたが、同書で空飛ぶ円盤やネッシーなどと共に、ヒマラヤの雪男の存在を知りました。雪男のミステリーに魅了されたわたしは、それ以来、雪を見るたびに、雪男のことを考えるようになったのです。
ライフワークとして幾年にもわたりヒマラヤを歩きまわった著者テイラーは、インドに生まれ、ネパールや中国に国立公園を作った活動家です。本書では、不思議な足跡の主としてのイエティ、信仰の対象としてのイエティ、環境運動のマスコットとしてのイエティ、すべてが丁寧な調査と経験から明らかになります。環境活動の冒険記としても傑作です。
イエティのミステリーについては、ヒマラヤの言い伝えに、人間に非常によく似た動物が、エベレスト山の雪の中で生息しているという話があるとして、著者は「この伝説を、冗談ぬきの真剣な探索へと向かわせたのが足跡だった。物語は足跡を残さない――足跡があるということは、足跡を付けたものがいるということだ。そしてこの論法でいくと、100年以上ものあいだ足跡が発見され続けているのは、異形の動物が単体ではないことを意味している。単体の奇形動物によって足跡が付けられたとしたら、動物が死んだあともなお、特徴のある足跡が引き続き見つけられることなどありえないからだ。さらにその上、同じ特徴を持つ足跡が、さまざまな大きさで発見されたとなると、それは動物が繁殖を続けていて、個体群をなしていることをほのめかしている」と書いています。
現在では、雪男の正体は特定されています。その正体については、詳しくは本書をお読み下さい。著者のテイラーは、「私は世界の一部であり、世界とともにある者で、世界のすべてを使う者だからだ。つながりは私を、自分が作るものにではなく、生き物の場所へと運んでくれる。その中で私は育つことができるが、それをコントロールすることはしない。生き物とともにいることで・・・・・・その大いなる野生に加わることはできるだろう」と高い理念を掲げています。彼が掲げた理念のもとに、ネパールではマカルー・バルン国立公園が作られ、中国ではチョモランマ国家級自然保護区(QNNP)が設立されました。
本書は雪男イエティという未確認動物(UMA)のミステリーが解き明かされるだけでなく、なぜ人はこのような話に魅了されるのか、人の心の奥底にひそむ野生への憧れについても考察した名著です。