『神さまってホントにいるの?』石井研士著(弘文堂)
宗教学者である著者から送られた本です。著者は、國學院大學教授で、同大学の神道学部長でもあります。ともに、6月1日に創設された日本初となる冠婚葬祭総合研究所の客員研究員に就任しました。
本書を読んで、日本人の信仰についての以下のくだりが印象的でした。
「日本人は宗派を開いた宗祖への信仰ゆえにお彼岸やお盆に参拝するのではありません。熱心に墓参りに行く人でも、自分の寺院が何宗か、宗祖は誰でどのような教えを説いたのか知らない人は少なくありません。日本人がお寺に行くのは、そこに御先祖様(血縁)が祀られているからです。そしていつか自分もご先祖様の列に加わることが予定されています。
神社でのお祭りへの参加や初詣もそうしたものでした。村人が総出で村の鎮守様のお祭りに参加するのは、自覚的意識的な信仰以前に、地域社会が安泰で豊作であることを祈るため(地縁)です。それゆえに転居してしまえば、転居先の神社の氏子となります」
このような信仰こそ、まさに日本人の「こころ」の初期設定だったのでしょうが、それが崩れ、血縁も地縁も希薄化していく中で「無縁社会」という言葉が生まれました。その「無縁社会」を乗り越えるために「儀礼文化」というものがあります。著者は、儀礼文化の現状について以下のように述べています。
「結婚式は村をあげての一大行事で、村人の大半が儀礼に加わりました。厄年も同じ年に生まれた者が一緒に厄除けを行ったものです。そして葬儀は、村人の手作りの棺桶に遺体を納めてお墓まで野辺送りをしました。儀礼は、誕生から死に至る儀礼まで、村民の協力なくしては行うことのできないものでした。しかしながら、現在はそうした状況にないことはおわかりの通りです。集団の拘束力からの解放は、個人や家族が従来の伝統から離れて、新しい儀礼ややり方を選択することを可能にしました」
本書を読んで、わたしは日本人の「こころ」の現状がよくわかりました。
血縁、地縁をよみがえらせ、「有縁社会」を再生するためには、初期設定を思い出すことも大切ですが、何よりも現代にマッチしたアップデートが求められます。
わたしは、儀礼文化すなわち冠婚葬祭のアップデートによって日本人を幸福にできると本気で思っています。
現代日本人の「こころ」に合った冠婚葬祭を提供していく上で本書からさまざまなヒントを与えられました。宗教は「こころ」の最も核となるものです。本書は、日本人の「こころ」を知る上で最適のテキストです。