ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第171回

『世界のビジネスエリートが知っている教養としての茶道』竹田理絵著(自由国民社)

 茶道500年の歴史を習得するための本です。著者は、株式会社 茶禅の代表取締役。一般社団法人 国際伝統文化協会理事長。日本伝統文化マナー講師。茶道裏千家教授。
 「はじめに」で、著者は「祖父は掛け軸の職人、母は茶道の先生という家庭の中、和の空間があたりまえと思って育ってきました。社会人となり(中略)外国人から『日本の文化について』説明を求められた際に何も答えられずに(中略)チャンスを逃した人をみて、寂しい気持ちになり、茶道を中心とした日本の伝統文化の素晴らしさを伝えたいと思うようになりました」と述懐します。
 退職後、銀座の歌舞伎座の隣りにお茶室「茶禅」を開きましたが、年間30カ国以上の人々が日本の文化を求めて訪れるそうです。ビジネスパーソンとして求められているのは、ただ仕事ができるだけではなく、人間的な幅や厚みを身につけ、豊かな心を持った教養ある人であるという著者は、「そのような時代に、日本の伝統文化や精神について説明できることが益々重要になっています。
 茶道は書道、華道、香道、着物、建築、和食など、日本の美意識が全て入った総合伝統文化といわれています。教養として茶道を学ぶことは、幅広い日本の伝統文化を学ぶことにもなります。日本人として、日本の伝統文化についての教養を身につければ、国際人として真の自信を持つことができます。」と茶道を修める意味と効能を語ります。
 「おわりに」では、著者は「今、私たちが一番求めていることは、心の平静、安定ではないでしょうか。新型コロナウイルスの影響もあり、手の汚れを落とすことは生活の一部になりましたが、目にみえない心の汚れや曇りを意識したことはありますか?」と読者に問いかけます。そして千利休に「茶道とは何ですか?」と尋ねると、「渇きを医するに止まる」と答えた逸話を提示し著者は、「これは、お茶が単に喉の渇きを癒すだけでなく、心の渇きも癒すのだと答えたのです」と述べます。
 最後に、「水を運び、薪を取り、湯を沸かし、茶を点てて、仏にそなえ、人に施し、吾も飲む」という千利休の言葉を紹介し、著者は「水を運び、取ってきた薪で湯を沸かし茶を点てる。お茶は仏様に備え、お客様にも召し上がっていただき、自分も飲む。それが茶の湯です」と本書を締めくくるのでした。
 わたしは、「茶道はヘルスケア・アートであり、スピリチュアルケア・アートであり、グリーフケア・アートでもある」と考えているのですが、本書を読んで、その考えが間違っていないことを確認しました。とてもわかりやすくて、興味の尽きない茶道入門書です。
 令和の時代の『茶の本』と言えるでしょう。