『お探し物は図書室まで』青山美智子著(ポプラ社)
いわゆる図書館ものです。仕事や人生に行き詰まった人々が、司書の紹介する思わぬ本で活路を見出すところが興味深かったです。
著者は1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入り、第28回パレットノベル大賞佳作受賞。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。同作と2作目『猫のお告げは樹の下で』が未来屋小説大賞入賞。
小学校に隣接したコミュニティハウスの図書室には、大きな体をした小町さゆりさんという司書の女性がいます。映画「ゴーストバスターズ」のマシュマロマンやディズニーアニメのベイマックスに似ていると描かれる彼女が紹介する本は、『ぐりとぐら』『英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ』『月のとびら』『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』『げんげと蛙』など、きわめてユニークな、それでいて読む者の人生に大きな影響を与える本ばかりでした。
それらの本が、登場人物たちの心にいかに影響を与え、いかに人生を好転させていくかについては、本書をお読み下さい。わたしは、その中の数冊がどうしても読みたくなり、早速アマゾンで注文しました。
それにしても、「本ほど、すごいものはない」ということを再確認しました。自分でも本を書くたびに思い知るのは、本というメディアが人間の「こころ」に与える影響の大きさです。
わたしは、本を読むという行為そのものが豊かな知識にのみならず、思慮深さ、常識、人間関係を良くする知恵、ひいてはそれらの総体としての教養を身につけて「上品」な人間をつくるためのものだと確信しています。読書とは、何よりも読む者の精神を豊かにする「こころの王国」への入口なのです。
本書に出てくる5つの短編小説には、いずれも本とともにお菓子が登場します。「ハニードーム」というお菓子です。洋菓子メーカー呉宮堂のロングセラーで、ドーム型のソフトクッキーだとか。「そんなに高級品じゃないけれどコンビニでひょいと買えるものでもなく、ほんのちょっとの贅沢という感じがまたいい」と書かれています。
ハニードームは濃いオレンジ色の小箱に入っています。六角形の飾り枠と白い花が描かれたパッケージですが、それを小町さんは羊毛フェルトを作る裁縫箱として使っているのでした。このハニードームは架空のお菓子で現実には存在しませんが、物語の良いアクセントになっています。「お菓子は幸せな気分にしてくれる」という小町さんの発言もありますが、本とお菓子は幸せに通じるのですね。