『良寛さんの愛語』自由訳 新井満著(考古堂書店)
「千の風になって」で一大ブームを起こした新井満氏の次のキーワードは「愛語」です。愛語とは何か。それは、日本の仏教が生んだ言葉です。曹洞宗の開祖である道元が著(あらわ)した『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』の中に『愛語』は登場します。
道元が愛語の重要性を説いてから五百年後、若き良寛が『正法眼蔵』を読んで感動しました。そして、自らも愛語を心がける人生を送ります。
最晩年に、ふと筆を取った良寛は『愛語』の全文を書き写しました。この書を現代に甦らせたのが、この『良寛さんの愛語』なのです。
良寛は、人々を苦しみから救い幸せにしたいと考えました。そして、さまざまな愛語を大切にしました。 たとえば、「お変わりございませんか」
これも立派な愛語です。身体の具合はどうなのか、何か困っていることはないか、何か悩んでいることはないか、などなど、相手のことを気づかっているのです。
別れ際には、「ごきげんよう」とか「どうかお大事に・・・」という愛語をかけます。または、「お気をつけて」とか「どうかお達者で・・・」というのも愛語です。 老人には「いかがですか・・・」という愛語をかけるとよいそうです。老いた人というのは孤独なものであり、一言もしゃべらないうちに一日が終わることもある。
しかし、こちらが「いかがですか・・・」という言葉をかければ、相手は何らかの言葉を返してきます。そこから、言葉の交流がはじまり、心の交流が生まれるというのです。すなわち、はなれていた心と心の間に一本の橋が、かかるわけですね。
さて、愛語はどこから生まれてくるのでしょうか。それは、「愛心」から生まれてくるといいます。では、愛心とはどこから生まれてくるのか。それは「慈心」から生まれてくるのです。そして、慈心とは「いのちをいつくしむ心」に他なりません。
愛語とは人間関係を良くする魔法かもしれません。本書を読んで、ぜひ、わたしたちも日々の生活の中で愛語を使いたいものです。