ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第189回

『美しく枯れる。』玉袋筋太郎著(KADOKAWA)

 著者は、1967年、東京生まれ新宿育ち。高校卒業後、憧れのビートたけしに弟子入りし、1987年に水道橋博士とお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。芸能活動のかたわら、多数の本を手がけ、小説デビュー。社団法人「全日本スナック連盟」を立ち上げ、自ら会長を務めています。著書多数。
 本書のカバー表紙には、花札が描かれたシャツを着てビール瓶を持った著者の写真が使われ、帯には「なんだかさ 人生ってのは難しいよな?」と大書されています。
 2020年に著者はオフィス北野から独立しフリーに。兄弟弟子である「たけし軍団」から離れ、「浅草キッド」の相棒である水道橋博士、師匠であるビートたけしとの距離も遠のきました。初孫という新しい命に喜びを感じながらも、一方で母親は認知症を患い介護施設に入所しました。そして長年連れ添った妻は、ある朝、家を出てしまったのです。仕事の人間関係、夫婦仲、家族構成にも変化が訪れる、波乱万丈な50代の人生論が本書です。
 2024年の6月で57歳になったという著者が「50代を生きるって、とても大変で、難しい」と思っていることを告白します。40代までは、そこまで深く考えずとも突っ走ることができたそうです。もちろん、それなりに悩んだり、迷ったりしたこともあったけれど、それでも、がむしゃらに突っ走っていればなんとか突破口を見つけることができたといいます。しかし、50代を迎えた途端に、人間関係も、仕事も、夫婦関係も、家族関係もすべてが一変しました。今は「人生って難しいな」と感じる機会が増えたとか。
 著者は「自分の力ではどうにもならないことが急に増えたような気がする。いや、確実に増えている」と赤裸々に告白します。しかしながら、いつまでも「辛い」とか「大変だ」とかいっていても仕方ありません。だから、著者は著者なりにこれからの人生の目標というか、生き方の基本を「美しく枯れる」ということにしようと考えているといいます。そして、「老木には老木の美しさがあるじゃない。加齢臭を蘭奢待のように味わいあるものにしたいじゃない。これからの人生を、オレはそんな境地で生きていきたい」と述べるのでした。
 本書で、著者が述べたことのすべてに共感あるいは同意したわけではありません。また、わたしは現在61歳で、著者が「50代を生きるって、とても大変で、難しい」という段階はすでに通り過ぎました。
それでも、さまざまな苦労の末に飲むビールや町中華の旨さを饒舌に語る著者の生き様を見ると、「なんだかんだ言っても、この人は人生の達人だな」と思えるのでした。ちょっと人生に疲れた方に一読をおススメします!