『悲しんでいい』髙木慶子著(NHK出版新書)
「グリーフケア」という言葉をご存知でしょうか。「悲嘆からの回復」という意味で、愛する人を亡くした遺族の方々などが必要とされるものです。
著者は日本におけるグリーフケアの第一人者で、上智大学グリーフケア研究所の所長でもあります。
自ら阪神・淡路大震災で被災しながら、被災者たちの心のケアに取り組んできました。その後は、JR西日本の脱線事故の遺族の心のケアにも関わりました。
今また、東日本大震災の被災者たちの心をケアする著者が、悲しみに寄り添う心がまえを説いたのが本書です。
さまざまな喪失体験から生じる「負」の感情が「グリーフ(悲嘆)」と呼ばれるわけですが、日本人はいま、かつて経験したことのないような深い悲嘆の苦しみを強いられています。
このたびの大震災と原発事故は、つまるところ「自然災害」と「人為災害」です。突然襲ってくる天災による喪失体験は、人から生きる希望を奪います。事件や事故といった人災による喪失体験は、悲しみと加害者への激しい怒りをかきたてます。著者は、「天災のダメージと、人災の拡大は、それだけ複雑に私たちの心を傷つけ、日本中を失意の底に陥れたのです」と述べています。
本書で最も共感したのは、日本における葬儀の役割について述べた部分でした。クリスチャンである著者は、次のように述べています。
「日本では、仏式のお葬式が一般的です。私はクリスチャンですが、仏教の供養は悲嘆にある方の心を癒してくれる、先人の知恵だという気がします」
通夜にはじまり、初七日、四十九日法要、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌と続く供養のしきたりは、遺族の悲しみの心を癒すものでもあります。法要のたびに親戚が集まることは、「亡き人のことを忘れてはいません」「残された家族のことをみんなで心にかけています」という思いをご遺族に伝えるのです。
著者によれば、大切な人を失った方にとって、忘れてほしくないことは二つあります。それは、悲しみを負った自分自身の存在と、故人の存在です。亡き人への追悼の言葉は、そのまま遺族への癒しになるというのです。まったく同感です。
本書は、著者の実体験に裏づけされた実践的なグリーフケアの入門書です。あの阪神・淡路大震災が日本に「ボランティア」の時代を呼び込んだように、東日本大震災が「グリーフケア」を日本に根付かせることを願っています。