『七帝柔道記』増田俊也著(角川書店)
合計580ページもありますが、面白くて一気に読了しました。
著者は1965年生まれの作家で、北海道大学を中退しています。著者の名を世に知らしめたのは、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で、同書で第43回大宅壮一賞、第11回新潮ドキュメント賞をダブル受賞しました。
本書は、著者の自伝小説とも言える内容であり、「七帝柔道」の王者を目指して猛練習に励む北海道大学柔道部を舞台にした青春小説です。
七帝柔道というのは、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の、いわゆる旧帝国大学七校の間で戦われる柔道の大会です。この大会は、講道館ルールとは違い、「七帝ルール」という特殊なルールで戦われます。一本勝ちのみ、場外なし、寝技への引き込みOKというもので、寝技中心の戦いとなります。
いわば戦前の高専柔道の流れを汲んだ実戦色の強い柔道なのですが、七帝柔道の大会は十五人づつの抜き勝負で行われます。七大学の選手たちはチームの勝利のために己の尊厳をかけて戦うのです。
旧帝大には、オリンピックや全日本選手権を目指すような強豪大学のように柔道推薦がありません。そのために、部員の三割から五割は大学から白帯で柔道を始めた選手たちとなります。各チームは選手を「抜き役」という勝ちにいく選手、「分け役」という引き分けを狙う選手に役割分担します。そして、すべては七帝戦で勝つために、全選手が滅私のチームプレーをするのでした。
過酷な練習に耐え抜いた北大柔道部は、ついに七帝戦に挑みます。果たして、最下位から脱出できるのか。それとも、奇跡の優勝を果たすのか。
ネタバレにならないように結論を書くのは控えますが、現実は甘くはありませんでした。なぜなら、相手も同じような苦しい練習を経てきていたからです。まったく、思うようにならないものが人生であると言えるでしょう。
読んでいるうちに、わたしは自分が北大出身のような気がしてきました。魅力的なキャラクター、先の読めないストーリー、そしてディテールの描写。この三つが長編小説の傑作条件ですが、本書はいずれの条件も見事に達成しています。本書を読み終えて、たまらなく柔道がやりたくなってきました。
でも、この物語はたんなる柔道の話ではありません。あらゆる世界で懸命に生きる人たちへの賛歌です。