『老人入門』和田秀樹著(ワニブックス)
5月10日で、わたしは還暦を迎えます。いよいよ老人の仲間入りをするということで、覚悟をもって本書を読みました。
著者は1960年、大阪府生まれ。精神科医。老年医学の専門家。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっています。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)など著書多数。
「老いは本来、幸せな時間」であり、「知らずに老いるともったない!」と考える著者は、「老いはゆっくりとしか進まない」「人間は程度の差はあるがみんなボケていく」「老いたら粗食ではいけない」「With病気という考え方で穏やかな老後を迎えられる」「薬で数値を下げると生活の質まで下がる」「高齢になるとがんは誰にでもある(老化現象の1つ)」「自由時間を楽しめば脳の機能は維持できる(脳トレはいらない)」「日常生活の中で身体を動かせば筋肉は維持できる」「あなたの老いの中の幸せな時間に気がつこう」「老いてからの人生はどんなに奔放でもいい」と説きます。
「はじめに」の冒頭を、著者は「人は誰もが老いるのですが、老いとか老化ということについてはよくわからない、よく知らないというのが実感なのではないでしょうか? たとえば、あなたが70代前半の場合、思ったより大したことはないなと思われているかもしれません。足腰も大して衰えていないし、頭もそんなに昔と変わらない。でも、ここから先どうなるのかよくわからない。衰えを感じている80代の人についても先のことが予想できる人はまずいません。それから先のことは経験したことがないのですから、わからないのが当たり前です」と書きだしています。
「おわりに」では、著者は、自身のもともとの性格を考えれば、東大卒の医師として、もっとガツガツと競争に勝つことを目指し、人を蹴落としたり、見下していたかもしれないとしながらも、「一度かなりの勝ち組になり、社会的地位を得た人が、年下の人たちから慕われていなければみじめといっていい晩年を送る姿を多く見てきたおかげで、社会的な肩書にこだわらないようになりました。首相というような地位もふくめて、肩書は最終的には失うものだし、その威光がそんなに長く続くものではないという風に思うようになったからです」と述べるのでした。多くの高齢者を見続けてきた著者だけあって、本書の内容は非常に説得力がありました。