『生きるために闘う』アントニオ猪木著(双葉社)
「燃える闘魂」と呼ばれたアントニオ猪木さんが、この世を旅立たれました。79歳でした。わたしにとって、最大のヒーローでした。
猪木さんは、リング上で幾多の名勝負を繰り広げ、ファンを熱狂させてきました。遺作となった本書は、かつてのライバルたちとの名勝負について著者自身が解説した本です。
著者の本名は、猪木寛至。1943年2月20日、横浜市鶴見区生まれ。14歳で家族とともにブラジルに移住。60年、力道山にサンパウロでスカウトされて帰国し、日本プロレスに入団。66年、東京プロレスを旗揚げ。翌年、日本プロレスに復帰も団体を離れ、72年、新日本プロレスを旗揚げ。「ストロングスタイル」を掲げ、多くの名勝負を繰り広げました。76年には、プロボクシング世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリと異種格闘技戦を行い、MMA(総合格闘技)の源流になったとされています。98年4月、現役引退。その後、晩年は難病の「全身性アミロイドーシス」と闘っていましたが、その様子を動画などで公開していました。自分の最も弱い姿を他人に見せることができたのは、著者が本当に強い人だったからでしょう。
「おわりに」の冒頭を、著者は「俺は今、生きている。肉体は病に侵されている。今日は調子がいいと思っても、翌日にはとつぜん、熱が出てベッドに横たわるような毎日だ。それでも、俺は生きている。そんなままならぬ闘病の日々を、あえてカメラの前で全部、さらけ出した。2021年11月27日に放送された『燃える闘魂 ラストスタンド~アントニオ猪木 病床からのメッセージ』(NHK BSプレミアム)がそれだ」と書いています。
わたしもこの番組を観ましたが、難病との闘いの末にやつれきった著者の姿がショックでした。著者は、「それでも、俺は生きている。今日、生きているということは、神様が今の俺に何かの役目を果たせと言っているのだろう。一歩進んで、一歩下がる。そんな毎日だが、前に進む気持ちはいつも変わらない。人は歩みを止めたとき、老いていくと言った俺だ。いつか来る最後の日まで、笑って歩き続けるつもりだ」と述べました。この言葉は、素晴らしい死生観であり、心底感服しました。
わたしは、子どもの頃からプロレスが大好きで、特にアントニオ猪木の大ファンでした。
本書にも登場するアンドレ・ザ・ジャイアント、スタン・ハンセン、ウィレエム・ルスカ、モハメド・アリ、ザ・モンスターマン、ウィリー・ウィリアムスらとの一戦には心をときめかせました。わたしは、著者から計り知れないほどの生命力や元気を頂戴しました。
本当にスケールの大きな方でした。故人の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。