ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第160回

『小泉今日子書評集』小泉今日子著(中央公論新社)

 わたしの最新刊『心ゆたかな読書』(現代書林)を刊行するにあたり、ブックガイドや書評集の類を可能な限り読んだのですが、80年代の女性アイドルを代表するキョンキョンのこの一冊が特に心に残りました。
 本書には、2005年から2014年にかけて「読売新聞」に掲載された97冊分の書評が集められています。著者は「その本を読みたくなるような書評を目指して十年間、たくさんの本に出会った。読み返すとその時々の悩みや不安や関心を露呈してしまっているようで少し恥ずかしい。でも、生きることは恥ずかしいことなのだ。私は今日も元気に生きている」と、「はじめに」に綴っています。
 一方、読書を始めたきっかけについて、著者は「本を読むのが好きになったのは、本を読んでいる人には声を掛けにくいのではないかと思ったからだった。忙しかった10代の頃、人と話をするのも億劫だった。だからと言って不貞腐れた態度をとる勇気もなかったし、無理して笑顔を作る根性もなかった。だからテレビ局の楽屋や移動の乗り物の中ではいつも本を開いていた。どうか私に話しかけないで下さい。そんな貼り紙代わりの本だった。それでも本を一冊読み終えると心の中の森がむくむくと豊かになるような感覚があった。その森をもっと豊かにしたくなって、知らない言葉や漢字を辞書で調べてノートに書き写すようにした。学校に通っている頃は勉強が大嫌いだったのに退屈な時間はそんなことをして楽しむようになった」と回想しています。
 本書を通読して感じたのは、「死」についての著者の感性の豊かさです。自身の死生観をしっかりと持っており、『心ゆたかな読書』でわたしが取り上げた本も本書に登場します。
 たとえば、天童荒太の小説『悼む人』です。その書評では、「生と死、そして愛という言葉。簡単なようで言葉にするのは難しいテーマだと思う。大袈裟に捉えすぎても、軽んじてもいけない言葉なのだと思うが、著者は丁寧に慎重に言葉を積み重ね、静かにゆっくりと私達を導いてくれる」と記しています。
 また、辻村深月の小説『ツナグ』の書評では、「誰に会いたいか? 本を閉じてから考えた。父親、恩師、10代で逝った幼なじみ。いろんな人の顔が浮かんだけれど、会いたいとは思わなかった。あの世とこの世に別れてからの方が、ずっと近くに感じているからだ」と告白しています。わたしの考えにも似ていて、なんだか嬉しくなってきました。
 じつは、拙著『愛する人を亡くした人へ』を原案とするグリーフケア映画「愛する人へ」の製作が決定しています。可能ならば、いまや日本映画界を代表する名女優でもある著者に出演していただきたいです!