『悲しみとともにどう生きるか』柳田邦男&若松英輔&星野智幸&東畑開人&平野啓一郎&島薗進著、入江杏編著(集英社新書)
タイトルからわかるように、グリーフケアのメッセージ集です。共著者の柳田氏はノンフィクション作家。若松氏は批評家・随筆家。星野氏は小説家。東畑氏は臨床心理学者。平野氏は小説家。島薗氏は宗教学者で、上智大学グリーフケア研究所所長。編著者の入江氏は、2000年に発生した「世田谷事件」の被害者一家の遺族であり、グリーフケアの自助グループ「ミシュカの森」主宰。
「まえがき」で、入江氏は「『世田谷事件』を覚えておられる方はどれほどいらっしゃるだろうか?」として、「未だ解決を見ていないこの事件で、私の2歳年下の妹、宮澤泰子とそのお連れ合いのみきおさん、姪のにいなちゃんと甥の礼くんを含む妹一家四人を喪った。事件解決を願わない日はない。あの事件は私たち家族の運命を変えた」と書いています。
入江氏は「悲しみ」について思いを馳せる会を「ミシュカの森」と題して開催するようになりました。本書はこれまでに「ミシュカの森」に登壇した講師の中から、冒頭に挙げた6人の講演や寄稿を収録したものです。
「不条理な喪失によって辛く悲しい思いに打ちひしがれている人が生き直す力を取り戻すには、(中略)喪失体験者が孤立しないでゆるやかにつながり合うことが、とても大切だ」(柳田邦男)
「悲しみの中にいる人も、悲しみを知る者だからこそ、誰かを幸せにすることはできるし、自分自身が幸せを得ることもできるのだと思います」(若松英輔)
「時に暴力的に作用する『大きな物語』や『マジョリティの声』に対抗するには、(中略)ただひたすらに個人の言葉を探し続けることが必要なのではないかと思います」(星野智幸)
「重要なことは、ケアとセラピーだったら、基本はまずケアです。ケアが足りているならば、次にセラピーに移る。仮病でいえば、まずは休ませて、それでまだ何日も仮病が続くようなら、『仮病だよね』という話をしたほうがよいということですね」(東畑開人)
「よく考えてください。被害者のケアを怠っているのは、国だけじゃありません。『準当事者』である僕たちですよ。僕たちは、ニュースで見た犯罪被害者のために、一体、何をしているのでしょうか?」(平野啓一郎)
「社会がますます個人化され、『ともに分かち合う』ことがしにくくなっているが、宗教的な表象を引き継ぎつつ、悲嘆を『ともに分かち合う』新たな形が求められている。切実な欲求である」(島薗進)
どの言葉も優しく、悲しみを生きる力に変えていくための珠玉のメッセージばかりです。この共感と支え合いの中で、「悲しみの物語」は「希望の物語」へと変容していきます。