『論語と算盤』渋沢栄一著(角川ソフィア文庫)
NHK大河ドラマ次回作は「青天を衝け」(2021年2月14日開始)ですが、主人公は本書の著者である渋沢栄一です。
新1万円札の顔としても注目される人物で、約500の企業を育て、約600の社会公共事業に関わった「日本資本主義の父」として知られています。晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補に二度も選ばれています。その彼が生涯、座右の書として愛読したのが『論語』でした。 渋沢栄一の思想は、有名な「論語と算盤」という一言に集約されます。それは「道徳と経済の合一」であり、「義と利の両全」です。結局、めざすところは「人間尊重」そのものであり、人間のための経済、人間のための社会を求め続けた人生でした。
本書で、渋沢栄一は全10章にわたって孔子の精神を説きますが、最後は「成敗は身に残る糟粕」として、以下のように述べています。本書を初めて読んで以来、この言葉はわが人生の指針となっています。
「とにかく人は誠実に努力黽勉して、自ら運命を開拓するがよい。もしそれで失敗したら、自己の智力が及ばぬ為と諦め、また成功したら智慧が活用されたとして、成敗にかかわらず天命に託するがよい。かくて敗れてもあくまで勉強するならば、いつかは再び好運に際会する時が来る。人生の行路はさまざまで、時に善人が悪人に敗けた如く見えることもあるが、長い間の善悪の差別は確然とつくものである。故に成敗に関する是非善悪を論ずるよりも、先ず誠実に努力すれば、公平無私なる天は、必ずその人に福いし運命を開拓するようにしむけてくれるのである」
『論語』はわたしの座右の書でもありますが、その真価を最も理解した日本人が3人いると思っています。聖徳太子と徳川家康と渋沢栄一です。聖徳太子は「十七条憲法」や「冠位十二階」に儒教の価値観を入れることによって、日本国の「かたち」を作りました。徳川家康は儒教の「敬老」思想を取り入れることによって、徳川幕府に強固な持続性を与えました。そして、渋沢栄一は日本主義の精神として『論語』を基本としたのです。
聖徳太子といえば日本を作った人、徳川家康といえば日本史上における政治の最大の成功者、そして渋沢栄一は日本史上における経済の最高の成功者と言えます。この偉大な3人がいずれも『論語』を重要視していたということは、『論語』こそは最高最大の成功への指南書であることがわかります。『論語』の言葉を題材に、自身の経験や思想を縦横無尽に語る渋沢栄一の『論語と算盤』は、日本人が書いた最高の『論語』入門書であると同時に、『渋沢論語』でもあるのです。