『フランス人は「老い」を愛する』賀来弓月著(文響社)
「60歳からを楽しむ生き方」というサブタイトルがついています。なぜ、このような本を読もうかと思ったかというと、クロード・ルルーシュの名作フランス映画「男と女」の53年後を同じキャストで描いた「男と女 人生最良の日々」に登場する高齢者カップルがあまりにもオシャレで魅力的だったので、その秘密を探りたいと考えたからです。
著者は1939年愛知県生まれ。1960年外交官上級試験合格、1961年名古屋大学法学部卒、外務省入省、英オックスフォード大学大学院留学(外務省在外上級研修員)。本省では、国連局、欧亜局、経済局に勤務。海外は、英国、スイス、ブラジル(2回)、米国(2回)、デンマーク、タンザニア、イタリア、カナダ、インド(2回)などに勤務。外務省退職後、清泉女子大学非常勤講師、NPO法人アジア近代研究所特別顧問。ローマン・カトリックだそうです。
著者はその経験から、フランスには老いを「人生の実りと収穫の秋」と考える文化があるとして、「フランスでは年を重ねても(あるいは年を重ねたからこそ)生き生きと毎日を過ごしている多くの高齢者たちに出会いました。一般的に、フランス人は定年退職や引退を楽しみにして生きています。そして、30代、40代という若い時代、あるいは遅くても50代の初めから、その準備にとりかかります。そのことについても日本との違いを感じました」と述べています。
さらに、日本で一般的にイメージされている通り、フランス人には、おしゃれや美食や性愛を、生きるときの大きな喜びと考える国民性があるといいます。なおかつそうした楽しみを彼らは80歳になっても90歳になっても断念しようとはしないうえ、フランスの高齢者たちは人生の最後まで生きることを楽しもうとするそうです。
本書には「人生は美しい」と考えるフランス人たちの「豊かな老い」が余すところなく明かされています。「老い」に関する本はこれまでもたくさん読んできましたが、本書は読みやすく、またメッセージが具体的で示唆に富んでいます。世界で最も高齢化が進行する日本の高齢者はもちろん、若者たちも読むべき本です。
わたしは、かつて、『老福論』(成甲書房)という著書で「老いの豊かさ」について論じました。そこでは、古代エジプト、古代ローマ、古代中国、そして日本の江戸時代などにおけるポジティブな「老い」の思想を紹介したのですが、現代フランスに「老いの豊かさ」が存在していることに気づきませんでした。
なんだか、エディット・ピアフの「バラ色の人生」が無性に聴きたくなってきました。