『遺品 あなたを失った代わりに』柳原三佳著(晶文社)
著者は、交通事故や司法問題を中心に執筆するジャーナリストです。
本書の帯には、「愛する人は逝ってしまったけれど、心の中には『宝物』が遺っている…。」と記され、カバーの見返しには、次のように書かれています。
「遺品―。それは、高価なものでも珍しいものでもないけれど、かけがえのない大切なもの。流れていた時間は止まってしまっても、あなたが遺してくれたものの思い出は、ずっとずっと生き続けています」
本書は、春夏秋冬の4つの章に分かれています。それぞれ次のような遺品にまつわるエピソードが紹介されています。
春―「餃子」「洗濯物」「吸殻」「マダムの腕時計」
夏―「納経帳」「金魚」「弁当箱」「パジャマ」「最北端からの手紙」
秋―「秋桜(コスモス)」「ランドセルの中のカード」「封筒」「口紅」「最後の写真」
冬―「エンゲージリング」「ベニヤ板の落書き」「アラーム」「観音像」
この中には、いわゆる遺品の既成概念を超えたものもあります。遺品とは、まさに「見えるいのち」と「見えないいのち」とをつなぐ物に他なりません。 そして、それは単なる「物」を超越した、愛する人を亡くした人にとっての「宝物」でした。
著者が本書をまとめているとき、奇しくも東日本大震災が起こりました。津波の被害に遭った方の中には、家そのものを流されてしまった方もいます。
その中には、故人の思い出の品々がすべて一緒に流されてしまったという気の毒なケースもありました。つまり、故人の遺品が何もないわけです。瓦礫は、またの名を「思い出」とも言います。
残された人は、遺品によって、ありし日の愛する人の面影をしのび、その冥福を祈ります。
それが記念の品が何もないということであれば、残された人の記憶の中の故人の姿を似顔絵に描いたり、あの世の故人宛に手紙を書くのもよいでしょう。
また、故人が愛用していた洋服やアクセサリーと同じものを購入して身近に置いておくのもよいと思います。
死者に心を通わせることは、記憶とイメージの問題であり、その品が実際に故人の遺品でなくとも、故人を思い出すよすがになればいいのではないでしょうか。
わたしは、飛行機の中で本書を読んで泣きました。そして、やさしい気持ちになれました。すべての「愛する人を亡くした人」へおすすめしたいと思います。