『結局うまくいくのは、礼儀正しい人である』P・M・フォルニ著、大森ひとみ監修、上原裕美子訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コロナ禍にあって、わたしは改めて「礼」というものを考え直しています。特に「ソーシャル・ディスタンス」と「礼」の関係に注目し、相手と接触せずにお辞儀などによって敬意を表すことのできる礼法、中でも小笠原流礼法が「礼儀正しさ」におけるグローバル・スタンダードにならないかなどと考えています。日本人古来の徳である「礼」の価値が、世界的に見直されるかもしれません。
本書の著者は、アメリカ・メリーランド州ボルチモアに本部を置くジョンズ・ホプキンス大学のイタリア文学教授です。
長年、礼節をテーマにした講義やワークショップを行なってきた著者が、「礼節とは何を意味するか」について、以下のような結論を挙げています。
・礼節とは、複雑なもの。
・礼節とは、よいもの。
・礼節とは、ていねいに、礼儀正しく、行儀やマナーを守ること。
・礼節は哲学や倫理学の領域にあるもの。
この4点に沿って本書を書いたという著者は、「礼節ある人間でいるということは、つねに他人の存在を意識して、その意識のすみずみに寛容さと敬意と配慮を行き渡らせることです。礼節とは善意の表れです。誰か個人に親切で配慮ある態度をとるだけでなく、地域や地球全体のすこやかさに関心を持つことでもあるのです」と述べています。
礼節(=Civility)という言葉の由来は、都市(=City)と社会(=Society)という言葉にあります。著者は、「礼節という言葉の背景には、都市生活が人を啓蒙する、という認識があるのです。都市は人が知を拓き、社会を築く力を伸ばしていく場所なのです。人は都市に育てられながら、都市のために貢献することを学んでいきます」と述べます。そして、礼節とは「よい市民になること」「よき隣人であること」を指しているといいます。
著者は、「礼節ある生き方を選ぶということは、他者や社会のために正しい行動を選ぶということです。他者のために正しく行動すると、その副産物として人生が豊かにふくらむのです」と述べ、さらに「他人に親切にするのはよいことである」という真理は永久に色あせないと主張しています。
そして、「人生で最も重要なのは他者とのふれあいである」と断言し、「ふれあいの質の改善を、最優先事項とするべきではないでしょうか。礼節を守るのは、人と人とのふれあいの質を上げる最も確実な方法です。ふれあいの質が高まれば、人生はうるおいます。とてもシンプルなことなのです。」と提言するのでした。まったく同感です。