『心。』稲盛和夫著(サンマーク出版)
日本を代表する経営者であり、わたしが心から尊敬する稲盛和夫氏が8月24、老衰で亡くなられました。90歳でした。
稲盛氏には著書も多く、わたしはそのほとんど全部を読んでいますが、特に、「人生を意のままにする力」というサブタイトルがついている本書が心に強く残りました。
著者は1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰してきました。あまりにも偉大な人生です。
京セラとKDDIという2つの世界的大企業を立ち上げ、JALを〝奇跡の再生〟へと導いた、当代随一の経営者がたどりついた、究極の地平とは何か。これまで歩んできた80余年の人生を振り返り、また半世紀を超える経営者としての経験を通じて、著者が伝えたいメッセージとは。それはつまり、「心がすべてを決めている」ということでした。
人生で起こってくるあらゆる出来事は自らの心が引き寄せたものであり、すべては心が描いたものの反映であるというのです。その事実について、著者は、「この世を動かす絶対法則」だといいます。だから、どんな心で生きるか、心に何を抱くかが、人生を大きく変えていきます。これは人生に幸せをもたらす鍵であるとともに、物事を成功へと導く極意でもあるというのです。
本書は著者の思索の集大成というべき内容ですが、正直、経営者が書いた本というよりも、宗教家が書いた本のようです。視点を変えてみると、想いが現実を創造するという「引き寄せの法則」を説いた本であるとも言えます。ここまでスピリチュアルな内容をストレートに書けるのは、現実のビジネスの世界で圧倒的な成功を収めた著者にしか許されない特権だと思いました。
他の経営者、たとえばわたしのような小僧が本書のような本を書いても、「この著者は宗教がかっているな」と思われて終わりでしょう。さすがに、著者は卓絶しています。「稲盛和夫の前に稲盛和夫なく、稲盛和夫の後に稲盛和夫なし」といった印象です。
そんな偉大な哲人経営者である著者と、わたしは2012年に「孔子文化賞」を同時受賞させていただきました。これは、わたしの人生でも最高に名誉な出来事でした。著者の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌。