ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第164回

『ポップス歌手の耐えられない軽さ』 桑田佳祐著(文藝春秋)

 わたしが愛してやまない国民的バンド・サザンオールスターズのヴォーカリストであり、当代の日本を代表するポップス歌手である著者が「週刊文春」誌上で連載したエッセイをまとめた本です。
 著者自身のサウンドに大きな影響を与えたザ・ビートルズやエリック・クラプトン、ボブ・ディランらへの畏敬の念や、矢沢永吉、佐野元春や内田裕也、沢田研二、尾崎紀世彦など敬愛する日本のミュージシャンたちへの賛歌がユーモアをまじえて綴られています。
 なかでも、著者に最大の影響を与えたポップス歌手は、前川清でした。著者は、「生まれて初めてアタクシに、『歌声にシビれる』どころか、『その人の魂が乗り移る』ような経験をさせてくれたのは誰であったか・・・・・・。はい。それは、前川清さんであります!!」と告白し、さらに「1969年に内山田洋とクール・ファイブのヴォーカルとしてデビュー。『長崎は今日も雨だった』がいきなり大ヒットし、その後も『逢わずに愛して』『噂の女』『そして、神戸』『中の島ブルース』『東京砂漠』・・・・・・。歌い継がれる楽曲を続々と世に放ちます!!」と紹介しています。
 また、著者は「前川さんの、あの顰めっ面した表情と、喉奥から“愚痴でも吐くように”絞り出されるみたいな歌声。幅広のネクタイと細身のスーツを纏い、長身を直立不動にしてマイクを握り佇むそのお姿・・・・・・。さらに、背後からは最強のドゥー・ワップ・コーラスが援護射撃する!! それをアタシは、彼がデビューの頃からずっとこの目に焼き付けて参りました」と回想します。ポップス歌手・桑田佳祐の原点がクール・ファイブとは!
 さらに、著者は「今だからこそ断言しよう。『日本のロックにおいて日本語と英語の壁を取っ払ったのは、はっぴいえんどでも矢沢永吉でもサザンでもなく、誰あろうそれは内山田洋とクール・ファイブである』と!! だってそうなんだもん。前川さんの場合、よく言われる『大袈裟なヴィブラート』だって、実は泥臭い洋楽(的な)の発生だった。曲も良かった。無口で顰めっ面を貫いた前川清のキャラ作りも秀逸だった」と書くのでした。
 前川清さんといえば、わが社のイメージキャラクターですが、著者がここまでリスペクトする偉大な歌手にCMソングおよび社名のサウンドロゴを歌っていただくなんて、なんとわが社はラッキーなのでしょうか!
 「あとがき『女房の日記』」では、著者の奥様である原由子さんが「桑田家は明治初頭、小倉の城下町に住んでいた。丁度森鴎外が小倉に赴任して、『小倉日記』を書いた頃と重なる」と書いています。桑田家のルーツはわが街、小倉だったのです。想定外の感動でした。