ハートフル・ブックス 『サンデー新聞』連載 第131回

『セゾン 堤清二が見た未来』鈴木哲也著(日経BP社)

今年の2月末をもって小倉駅前の百貨店「コレット」が閉店しましたが、同施設で高い人気を誇ったのが6階の「小倉ロフト」でした。3月以降も継続して営業するとのことです。
また、馬借のクエスト第二ビル1階にある「無印良品」も北九州を代表する人気店です。 この「ロフト」と「無印良品」の生みの親が同じ人物であるとご存知でしたか。それは、「セゾングループ」という名の一大企業集団を築き上げた堤清二という人です。
本書の「はじめに」の冒頭を、著者は以下のように書きだしています。 「無印良品、ファミリーマート、パルコ、西武百貨店、西友、ロフト、そして外食チェーンの吉野家――。いずれも日々の生活でなじみのある企業であり、知名度の高いブランドだ。これらの企業が、かつて同じグループに属していたことを、知らない世代が増えている。コンビニエンスストアの中で、なぜファミリーマートだけが無印良品の化粧品やノートを売っているのか。改めて指摘されなければ、普段の生活では不思議に思わない」
これらはいずれも、堤清二がつくったセゾングループを構成していました。同グループは、小売業にとどまらず、クレジットカードや生命保険、損害保険などの金融業、ホテルやレジャー、食品メーカーまで、多様な事業を展開してきました。映画配給のシネセゾンやパルコ出版などのメディア関連事業、美術館や劇場といった文化事業を幅広く手がけた異色の企業集団でした。
一時はグループ約200社、売上高4兆円以上のコングロマリットを形成したセゾングループ。かつてはスーパーを軸としたダイエーと並んで、二大流通グループとされていました。今日では、ともにバブル経営の象徴とされて表舞台から消えてしまいましたが。
展開する事業の多彩さにおいては、セゾングループを超えるコングロマリットは日本に存在しませんでした。消費文化をリードする先進性を持ち、1970年代から80年代にかけて、セゾングループが手がける事業には、いつも何らかの新しさがありました。話題性に富み、常に時代に先駆ける高感度のセンスを備えていたのです。
堤清二は、「商品を売るのではなくライフスタイルを売る」「モノからコトの消費へ」「店をつくるのではなく、街をつくる」などの考え方を全面に打ち出しました。いま、彼のビジョンを知ると、日本の未来を的確に予測していたことに驚かされます。彼は、早過ぎた「未来人」だったのかもしれません。
北九州市は「流通」も「文化」も不毛の地などと言われますが、堤清二の考え方に学ぶところは多いのではないでしょうか。