『どんな時でも人は笑顔になれる』 渡辺和子著(PHP研究所)
200万部を超えるベストセラーとなった『置かれた場所で咲きなさい』の著者で、昨年末に89歳で帰天したノートルダム清心学園理事長の遺作となった書です。じつに帰天の10日前に本書の校閲を終えたとか。
「はじめに」には、「求めること、戸を叩くこと」も大切ですが、それに応えて与えられるものを謙虚に”いただく心”のほうがより大切であるとして、著者は「激しく求めただけに、その求めたものが与えられなかった時の落胆、捜しものを見つけられなかった時の失望には、計り知れないものがあります。でも、そういう切なさ、つらさこそが、実は人間が成長してゆく上で『本当に大切なもの』『必要なもの』だったのだと、いつか必ず気づく日があるものです」と述べます。
第1章「たった一度の人生をいかに生きるか」では、「冬に思うこと」として、著者は以下のように書いています。 「履歴書を書かされる時、必ずといってよいほど学歴と職歴が要求されます。しかしながら、もっとたいせつなのは、書くにかけない『苦歴』とでもいったものではないでしょうか。学歴とか職歴は他の人と同じものを書くことができても、苦歴は、その人だけのものであり、したがって、その人を語るもっとも雄弁なものではないかと思うのです。文字に表わすことのできない苦しみの1つ1つは、乗り越えられることによって、その人のかけがえのない業績となるのです」
それでは、著者にはどのような苦歴があるのでしょうか。これまでの著書には、2・26事件での父の死、母の反対を押し切って入った修道生活や若くして就いた学長職の苦労などが綴られています。
さらに本書の第2章「人を育てるということ」には、病気の苦しみについて、以下のように書かれています。
「私は50代の約2年間、うつ病で苦しんだ経験があります。その間も、学校の授業や仕事はなんとかこなしていましたが、常に『私にはその資格がない』という自信のなさがつきまとっていました」
当時の著者は、講義をしていても、言葉がスムーズに出てこなかったり、他人と話をしているのに、いつの間にか眠ってしまったりしたそうです。いっそ死んだほうがましだと思った時もあったそうですが、著者は次のように述べています。
「けれども今は、そういう苦しみがあったから、元気な時の自分がありがたいと思うようになれたのだと思います」
著者はカトリックのシスターでしたが、キリスト教に限らず、強い信仰心を持っておられる方の言葉には重みがあります。