『幸せになる勇気』 岸見一郎・古賀史健著(ダイヤモンド社)
哲人と青年の対話篇形式でアドラー心理学を紹介し、100万部以上を売り上げた前作『嫌われる勇気』の続編です。本当は2013年に刊行された前作を紹介したかったのですが、機を逸してしまいました。
その代りに、今年になって刊行された本書を紹介したいと思います。著者の岸見氏は日本におけるアドラー心理学の第一人者であり、一方の古賀氏はインタビュー原稿を得意とするライターです。
わが国で心理学というとフロイトとユングが有名ですが、世界的にはアドラーを加えて三大巨頭とされています。しかし、アドラー心理学は、堅苦しい学問ではありません。あくまでも人間理解の真理、また到達点として受け入れられています。
世界的ベストセラーとして知られるデール・カーネギーの『人を動かす』や『道は開ける』、あるいはスティーブン・コヴィーの『7つの習慣』にはアドラーの思想が色濃く反映されています。
フロイトはトラウマ(心に負った傷)を重要視しましたが、アドラー心理学では、トラウマを明確に否定します。過去の出来事が現在の不幸を引き起こしていると考えるのではなく、人は経験の中から目的にかなうものを見つけ出すというのです。「原因」ではなく「目的」に注目するのがアドラー心理学なのです。
「すべての悩みは人間関係の悩みである」「人はいま、この瞬間から幸せになることができる」「愛される人生ではなく、愛する人生を選べ」「ほんとうに試されるのは、歩み続けることの勇気だ」といった数々のアドラーの言葉が読者に勇気を与えてくれます。
本書の最後では、「あたらしい時代をつくる友人たちへ」として、哲人が青年に対して、「覚えておいてください。われわれに与えられた時間は、有限なものです。そして時間が有限である以上、すべての対人関係は『別れ』を前提に成り立っています。ニヒリズムの言葉ではなく、現実としてわれわれは、別れるために出会うのです」と語ります。
「ええ、たしかに」と言う青年に対し、哲人は「だとすれば、われわれにできることはひとつでしょう。すべての出会いとすべての対人関係において、ただひたすら『最良の別れ』に向けた不断の努力を傾ける。それだけです」と述べます。
わたしは、これを読んで大きな感動を覚えました。そして、最期のセレモニーである葬儀こそは「別れ」を目に見える形にしたものであることに気づきました。すべての人は、愛する人の葬儀を「最良の別れ」の形とすべきでしょう。