神話について考える
前回、東京ノーヴイ・レパートリーシアターによる舞台「古事記~天と地といのちの架け橋~」を紹介した。観劇後、ロシア功労芸術家のレオニード・アニシモフ氏、舞台の原作者で宗教哲学者の鎌田東二氏、そしてわたしの3人でトークショーを北九州芸術劇場で行った。
そこで、「神話」の意味について大いに語り合った。わたしは「人間は神話を必要とする動物」であり、神話とは宇宙の中に人間を位置づけることではないかと考える。
世界中の民族や国家は自らのアイデンティティーを確立するために神話を持っている。そして、世界中の神話の中でも最も有名なのが『ギリシャ神話』である。ヨーロッパ人の「こころ」は『聖書』と『ギリシャ神話』からできていると言える。
古代ギリシャ人はヨーロッパの中でもとりわけ素晴らしい神話を創造した。そして、神々や英雄や人間や動物についての驚くばかりの物語を指すときに現在用いられている「神話」という呼び名を生み出したのも、古代ギリシャ人である。
『古事記』は、『日本書紀』と並び、日本人にとって最も重要な書物だ。
ともに日本の神話が記されており、両書を総称して「記紀」といい、その神話を総称して記紀神話と呼ぶ。
周知のように、『古事記』は日本最古の歴史書であり、『日本書紀』は最古の官撰の正史とされる。
じつは、日本神話には世界中の神話の断片が詰まっている。文化人類学者のレヴィ・ストロースは、世界各地に散在する神話の断片が『古事記』や『日本書紀』に網羅され集成されている点に注目した。
構造人類学を提唱した彼は、他の地域ではバラバラの断片になった形でしか見られないさまざまな神話的要素が記紀ほどしっかりと組み上げられ、完璧な総合を示している例はないという。いわば、世界の神話の集大成が日本神話であると述べているわけである。こんな世界に誇るべき『古事記』をご一読あれ!