独言 全互協会員様へのメッセージ『互助会通信』連載 137

死者とともに生きる

 今年は、戦後80年という大きな節目である。日本人だけで310万人もの方々が亡くなられた、あの悪夢のような戦争を直接体験した世代も少なくなりつつある。いくら新型コロナウイルスの感染拡大の被害が大きかったと騒いでみても、戦争のほうがずっと悲惨である。そして現在も、世界では戦争が続いている。
 先の大戦について強く思うことは、あれは「巨大な物語の集合体」であったということである。真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、ゼロ戦、ビルマ戦線、神風特別攻撃隊、回天、硫黄島の戦い、東京大空襲、戦艦「大和」、ひめゆり部隊、沖縄戦、広島原爆、長崎原爆、満州侵攻、ポツダム宣言受諾、玉音放送・・・・・・挙げていけばキリがないほど濃い物語の集積体であった。
 それぞれ単独でも大きな物語を形成しているのに、これらが無数に集まった巨大な物語の集合体。それが先の大戦だったと思う。実際、あの戦争からどれだけ多くの小説、詩歌、演劇、映画、ドラマが派生していったことか。
 「物語」といっても、もちろん戦争はフィクションではない。紛れもない歴史的事実である。わたしの言う「物語」とは、人間の「こころ」に影響を与えうる意味の体系のことだ。人間ひとりの人生も「物語」である。そして、その集まりこそが「歴史」となる。そう、無数のヒズ・ストーリー(個人の物語)がヒストリー(歴史)を作るのだ。
 今年の8月、わたしは『死者とともに生きる~慰霊・鎮魂・供養』を産経新聞出版から世に問う。グリーフの巨大な発生装置である戦争がこの世から無くなることを祈りながら書いた。戦後80年という節目で、本書を読んだ方が故人を偲び、弔い、供養する契機となるような一冊であらんことを、著者として心から願っている。