令和こころ通信 『西日本新聞』連載 第20回

バレンタインデーの願い

 2月14日はバレンタインデーだった。妻が朝一番で手作りのチョコレート&クッキーをくれた。もう30年以上もずっと2月14日には手作りのチョコを贈ってくれている。感謝しかない。

 また、会社のみなさんや読者の方々からたくさんのチョコを頂戴した。サンレー本社の女子社員のみなさんからは「日頃の感謝を込めて」とか、読者の方からは「執筆の合間にチョコっと召し上がってください」などと書かれた直筆カードが添えられていた。まさに、「かたじけなさに涙こぼるる」思いだ。

 クリスマスと同じように、戦後の日本の中で定着した欧米由来の年中行事の1つがバレンタインデーである。バレンタインというのは3世紀に実在した司祭の名前で、彼が殉教した日が2月14日だった。

 なぜ求愛の儀式になったかというと、戦争に出征する兵士たちの結婚を禁止した当時の皇帝の命令に背いて、結婚を許可したことで司祭が処刑されたから。もとは求愛の儀式として欧米で定着したものだったが、日本では女性から告白する、その際にチョコレートをプレゼントする意味合いを持った。

 その後、求愛儀式というより、同僚や仲間への気遣いとしての「義理」、さらには自分や友人に「ごほうび」を与える、そんな儀式に変わりつつある。

 映画「ショコラ」や「チャーリーとチョコレート工場」などでも描かれたが、チョコレートは人の心を豊かにする素敵なお菓子だ。しかし、わたしたちの手元に届くまでには深刻な事情があることをご存知だろうか。

 2007年に出版されたキャロル・オフの『チョコレートの真実』(英治出版)という本によれば、原料となるカカオを栽培するアフリカの農園で働く子どもたちは、自分たちの過酷な労働の結果、夢のように甘くて美味しいお菓子が生まれることを知らないという。

 同書を読んだわたしは、カカオ農園で働く子どもたちにチョコレートを味あわせてあげたいと思った。そして、「自分たちは人を幸せな気分にする素晴らしいものを作っている」ことに気付かせてあげたいと願った。

 ところで、わたしは、聖マザー・テレサをリスペクトしている。彼女の偉大な活動のひとつに「死を待つ人の家」を中心とした看取りの活動がある。ここで死にゆく人々は、栄養失調から苦悶の表情を浮かべている人も多いそうだが、いまわの際に氷砂糖やチョコレートなどを口に含ませると安らかに微笑んで旅立ってゆくという。

 アフリカの子どもたちや、インドの老人たちも含めて、あらゆる人々に美味しいチョコレートが行き渡り、みんなが幸せな気分になれますように!