平成心学塾 法則篇 自分の法則を見つけよう #002

法則本ブーム

鏡に映った自分の髪が乱れていたら…

『鏡の法則』

ここ数年の出版界には、「法則本ブーム」とも呼べる現象があります。「法則」という言葉がタイトルについた本が続々とベストセラーになっているのです。

たとえば、『鏡の法則』(総合法令)。

経営コンサルタントの野口嘉則氏が書いた本で、「人生のどんな問題も解決する魔法のルール」とのサブタイトルがついています。思わず期待が高まりますが、簡単にいうと、「わたしたちの人生の現実は、わたしたちの心の中を映し出す鏡である」という法則。これが、「鏡の法則」です。

「人生は、自分の心を映し出す鏡である」ということを言い換えると、「自分の心の波長にピッタリな出来事が起きる」、または「心の中の原因が、結果として現実化する」ということだと野口氏は述べます。

つまり、心の中で不満ばかり抱いていると、その心を映し出すように、ますます不満を言いたくなるような出来事が現実に起こる。逆に、心の中でいつも感謝していると、さらに感謝したくなるような出来事が起こるということなのです。

鏡に映った自分の姿が気に入らないとき、どうするか。たとえば、鏡に映った自分の髪が乱れていたとします。そんなとき、鏡に手を伸ばして、鏡の中の自分の髪をさわろうとしても、無理ですね。自分自身の頭に手をやって、髪を整えるしかないのです。すると、結果として、鏡の中の自分の髪も整うわけです。

人生の問題もこれと同様だとする著者は、次のように述べます。

「人生の問題を根本的に解決するには、自分の心の中の原因を解消する必要があります。自分の心の中を変えることをしないで、ただ相手や状況が変わってくれることばかり期待しても、なかなか思いどおりにはならないのです」

悩みを解決する「そ・わ・か」って?

『「そ・わ・か」の法則』

『鏡の法則』では人生に幸せをもたらすための秘訣として「感謝」の存在をあげていますが、同じように「感謝」の大切さを前面に出したベストセラー本が他にもあります。

『「そ・わ・か」の法則』(サンマーク出版)です。

著者は、小林正観氏。心理学・社会学・教育学博士で、作詞家や歌手でもあるそうです。

小林氏は、すべての悩みは「そ・わ・か」で解決できると説きます。まず、悩みや苦しみというものをよく見てみると、大きく三つのジャンルに分かれるそうです。その一番大きなものはお金と仕事の問題。二番目が体と健康のこと。三番目が人間関係。この三つを解決する「そ・わ・か」とは何でしょうか。

般若心経やいろいろなお経を見ると、一番最後が「薩婆訶(そわか)」で締めくくられているものがたくさんあります。でも、小林氏のいう「そ・わ・か」はお経とは無関係です。この「そ・わ・か」は「掃除・笑い・感謝」のことだというのです。つまり、掃除の「そ」、笑いの「わ」、感謝の「か」、これが「そ・わ・か」なのです。この三つを覚えておくと、悩み苦しみ、苦悩煩悩はいっさいなくなるそうです。

小林氏はいいます。お金と仕事の問題は、「掃除」、とくにトイレ掃除をしていればなくなってしまう。体と健康の問題は、「笑って」いればいい。人間関係については、感謝、「ありがとう」を言っていればいい。このように「そ・わ・か」は楽しく生きる方法、幸せの意味が見えてくる三つのキーワードなわけですね。

小林氏には他にも『釈迦の教えは「感謝」だった』(風雲舎)といった著書もあり、一貫して「感謝」の大切さを唱えています。

はじめに感謝してしまえ

「感謝」に注目する人生法則を提唱した人物は、野口氏や小林氏が最初ではありません。

もうずいぶん昔から多くの人々が、人間が幸せになるためには感謝することが必要だと主張してきました。一日が平穏無事に終わったときに、万物に感謝の念を捧げることができる人は、すべての面で謙虚です。また、感謝することにより、相手に「自分は重要な人間である」と感じさせることができるわけです。

自己啓発書の古典的名著であるデール・カーネギーの『人を動かす』には、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズのエピソードが出てきます。ジェームズは、本を執筆中に病気になり、入院したことがありました。そのとき友人の一人が、アゼリアの花と感謝の言葉を書いたカードを届けました。

ジェームズは、お礼の言葉として「この贈り物は、わたしが本に書き忘れていたことを思い出させてくれました」と書き送ったそうです。彼は、人間性のもっとも深い所に横たわるもの、つまり感謝されたいという渇望を書き忘れていたと言いたかったのですね。

「ありがとうという気持ちを持ち続けていれば、不平、不満、怒り、怖れ、悲しみなんか自然に消えてなくなる」とは、自己啓発の世界における日本のスーパースター・中村天風の言葉です。わたしたちは、感謝すべき出来事があって、その後に感謝するのが普通です。しかし、天風は、「とにかく、まずはじめに感謝してしまえ」と教えたのです。いま、ここに「生きている」というだけでも、大きな感謝の対象になるというのです。

しかし、「感謝を先にしろ」と言われても、なかなかできるものではありません。ここで天風の教えは非常に実践的でした。どうしたら感謝本位の生活ができるのかに言及していて、それが「三行」の生活というものです。

「三行」の生活とは、わかりやすく言うと、正直・親切・愉快に日々過ごしていくことです。この三つの行いを実践することによって、感謝することが容易にできるようになっていくというのです。

世にも恐ろしい法則

『ああ正負の法則』

さて、ここ数年来、法則本とともにベストセラーをたくさん生み出してきたジャンルに「スピリチュアル」系の本があります。スピリチュアルカウンセラーの江原啓之氏が有名ですが、江原氏を世に出したのは、彼とテレビ番組「オーラの泉」で共演している美輪明宏氏であることは衆目の一致するところです。美輪氏自身が、天草四郎の生まれ変わりであると広言するスピリチュアルな人物です。美輪氏にはベストセラーになった著作も多いのですが、そんな一冊に、『ああ正負の法則』(PARCO出版)という本があります。

わたしは美輪氏には直接お会いしたことがあり、その「オーラ」に心から感服した人間です。以後、美輪氏を敬愛し、そのすべての著作を読んできましたが、『ああ正負の法則』こそは最高傑作だと思っています。

この本の帯には、「この地球には、〈世にも恐ろしい法則〉があります」とのキャッチコピーが書かれ、その下には「この本は、その〈法則〉を生活に取り入れて、上手に生きていくための〈人生のカンニングペーパー〉です」という文字が記されています。〈世にも恐ろしい法則〉という言葉に緊張しながらも、〈人生のカンニングペーパー〉という表現に少しだけ癒される気がします。

美輪氏はいいます。この地球の出来事はすべて「正」と「負」によっているのだ、と。たとえば、「昼」と「夜」、「陰」と「陽」、「北」と「南」、「男」と「女」、そして「天使」と「悪魔」……といった具合にです。

地球が全部、南だけで暖かいだけだったら、これは「正」だけです。逆に冷たいだけだったら、これは「負」です。しかし、地球というのは何から何まで「光」と「影」なのだと、美輪氏はいうのです。雨の日があれば、必ず晴れの日が来る。陸地があれば海がある。苦しみがあれば喜びがあるというように、「正負の法則」というのは、この地球の法則なのです。

「負」とともに生きる知恵

それならば、わたしたちは、どのように生きればよいのか。ここからが「スピリチュアル」な美輪ワールドに入っていきますが、美輪氏は次のように書いています。

「この《正負の法則》に反して、〈正〉ばかりになったら、それは天界の法則で、地球の法則に反するのでこの世にいられなくなるし、〈負〉ばかりで悪いところばかりだと、今度は魔界から呼ばれるのです。地球上でずっと長生きしていたければ、魔界の〈負〉の部分と、天界の〈正〉の部分を上手に、自分自身で納得をして、その両方のバランスをとりながらそれを保ち続ける、それがこの地球上で長生きできる方法なのです」

だから、人を見たときに魔界族と天界族とを瞬時に見分けるようにするとよいそうです。そして、「これは魔界から来ているんだ。だから、こういう人なんだ」と割り切って考えれば、裏切られて嘆いたり、腹を立てずにすみます。すると人間関係は楽になります。相手が魔界族だとわかっていれば、冷静に対処することができ、初めから近づかないか、つき合っても距離を置いておくから簡単に離れることができます。これは、嫁姑の家庭問題、職場での対人関係、政財官界の連中を見分けるとき、そして恋愛のときにも、すべて当てはまるそうです。

では、どのような人が魔界の住人なのでしょうか。美輪氏によると、「まず、ひと目見たときの第一印象がひんやりとした感じ、凶々(まがまが)しい、闘争的、自己中心的、傲慢な感じ、陰険、陰湿、ヌメッとした蛇のようで、どことなく暗い。暗いくせにエネルギッシュ。強欲、すべてに貪欲、何にでも妬(ねた)み、そねみ、ひがみ、悪口ばかりを言う人」などだそうです。ちなみに、テレビのワイドショーに出ている人々の中にも、この手合いがたくさんいるとか。いったい、誰でしょうね?

さて、『ああ正負の法則』の一番の読みどころは、何といっても、「負」とともに生きる知恵を教えてくれる点でしょう。美輪氏は述べます。

「一番肝心なことは、悪いことが起きたからといって、嘆き悲しむことはない、ということです。悪いことは長くつづきませんから。そのかわり、良いこともまた長くはつづかない。だから、良いことがあったときには、施(ほどこ)しをするなどして、そこそこの〈負〉を先回りして自分で意識してつくるとよいでしょう。そうすれば予期しない、ものすごい〈負〉に襲われなくてすむようになります」

この「〈負〉の先回り」という考え方は、施餓鬼供養などに代表される、まさに昔の人の生活の知恵です。美輪氏は、昔の人はちゃんと地球上の法則にしたがって生き抜く生活法のコツを知っていたというのです。

謎の哲学者が書いたベストセラー自己啓発書

『「原因」と「結果」の法則』

これまでに紹介した『鏡の法則』『「そ・わ・か」の法則』『ああ正負の法則』などのベストセラー法則本は多くの読者を得ていますが、これらはすべて日本人が書いたものです。もちろん外国人も法則本を書いています。

代表的なものとしては、ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』(サンマーク出版)があげられます。

同書の「訳者まえがき」によると、アレンは英国が生んだ謎の哲学者で、1902年にこの本を書いたそうです。驚異的なロングセラーであり、なんと「聖書に次ぐベストセラーだとさえ言われています」とのこと。この世界の歴史上もっとも多くの読者を獲得してきた自己啓発書だとされているそうです。

この本は後の欧米の自己啓発書を書いた作家たちにも強い影響を及ぼしました。たとえば、現代成功学の祖として知られるナポレオン・ヒル、デール・カーネギー、アール・ナイチンゲールらをはじめ、ポジティブ・シンキングの祖とされるノーマン・ヴィンセント・ピール、デニス・ウェイトリー、オグ・マンディーノなどです。これらの人々は、自己啓発に関心のある人であればだれでもその名を知っているそうそうたるメンバーです。その彼らが、こぞってアレンの『「原因」と「結果」の法則』の内容を引用しています。

「近年の自己啓発書のほとんどは、アレンのシンプルな哲学に具体的な事例をあれこれとくっつけて、複雑化したものにすぎない」との指摘さえあるそうです。

この本で、アレンは次のように述べます。

「私たちの人生は、ある確かな法則にしたがって創られています。私たちがどんな策略をもちいようと、その法則を変えることはできません。『原因と結果の法則』は、目に見える物質の世界においても、目に見えない心の世界においても、つねに絶対であり、ゆらぐことがないのです」

わたしたちは、自分自身の思いによって、自分をすばらしい人間に創りあげることもできる。その反対に、思いによって自分を破壊してしまうこともできる。アレンによれば、心というのは「思いの工場」なのです。その工場で、自分自身を破壊するための兵器を作り続けるか、強さと喜びと穏やかさに満ちた美しい人格を創るための、優れた道具を作り続けるか。その選択は、わたしたちにかかっているのです。

後ほど詳しく説明しますが、この時代の自己啓発書には例外なくキリスト教の香りがします。つまり、神の存在を意識しているのです。アレンは、「人間は思いの主人であり、人格の製作者であり、環境と運命の設計者である」という自らの言葉のなかに、わたしたちに対する神からの信頼と約束が込められていると述べています。

わたしたちは、自分の人生に深く思いをめぐらし、それを創りあげている法則を自らの手で発見すべきなのだと、アレンはいいます。

そのとき、わたしたちは、自分自身の賢い主人となり、自分自身を知的に管理しながら、豊かな実りへとつづく思いを次々とめぐらすようになるというのです。そして、そのときから、わたしたちは、自分自身の「意識的な主人」になるのだと、アレンは主張します。

そうなるためには、まず、わたしたちが自分の内側で機能している「原因と結果の法則」を明確に意識する必要があります。そして、その認識とは、自らの「試みと経験と分析」によってのみもたらされるというのです。

この「思い」がすべてを決めるという、ジェームズ・アレンの「原因と結果の法則」は、その後、その名を変えてアメリカと日本の読書界を直撃しました。それも、非常に大型の台風として。その台風の名を「引き寄せの法則」といいます。