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理想土

 人類は古来から理想郷と呼ばれるさまざまな憧れの場所のイメージを抱いてきました。理想郷は三つに区分けすることができます。ユートピアとパラダイスとハートピアです。まずユートピアは、プラトンやトマス・モアやカンパネルラらが考えた理想都市で、時代が下ってからは社会主義者やSF作家たちが夢想しました。
次にパラダイスは、楽園や黄金時代の記憶であり、人類が淡い夢のように大切に心に抱いているものです。さらに、「島の楽園」と「山の楽園」の二つに分かれます。「島の楽園」は、東洋では蓬莱や竜宮、補陀落、西洋では『オデュッセウス』のカリュプソー、西の果てのヘスペリデスの園、シュメールの聖地ディルムンなどです。「山の楽園」は、東洋では須弥山、チベットのシャンバラ、中国の桃源郷、日本の高天原、西洋ではエデンの園、ギリシャ神話のオリュンポスなどが代表だと言えます。
そして、ハートピア。「心の理想郷」を意味する私の造語ですが、人間がこの世に生まれる以前に住んでいた世界であり、死後、再び帰る世界です。そこは平和で美しい魂のふるさとなのです。ユートピアが政治的・経済的理想郷としての「理想都」であるのに対して、ハートピアは精神的・宗教的理想郷としての「理想土」です。つまり、彼岸であり、霊界であり、極楽浄土であり、天国なのです。
リゾートをはじめとした地上の空間づくりに関わるとき、最大のヒントになるのは天国などのハートピアのイメージでしょう。なぜなら、ユートピアやパラダイスの豊富なバリエーションとは異なり、世界中の各民族・各宗教における天国観は驚くほど共通性が高く、それゆえイメージが普遍的だからです。心理学者のユングも言うように、神話は民族の夢であり、天国こそは人々が「かく在りたい」という願いの結晶。その夢や願いを地上に投影したものこそ「理想土」なのです。日本語の「まほろば」(すぐれてよい所の意)にも通じるでしょう。

一条真也
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