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となりびと

 サンレーでは、地縁再生のための「隣人祭り」開催のお手伝いをしています。
また、サンレーは有料老人ホーム「隣人館」を運営しています。
わたしは「隣人」のことを「となりびと」と呼んでいます。
アカデミー外国語映画賞を受賞した「おくりびと」が話題になりました。映画のヒットによって「おくりびと」という言葉が納棺師や葬儀社のスタッフを意味すると思い込んだ人が多いようです。しかし、「おくりびと」の本当の意味とは、葬儀に参加する参列者のことです。人は誰でも「おくりびと」、そして最後には、「おくられびと」になります。1人でも多くの「おくりびと」を得ることが、その人の人間関係の豊かさを示すように思います。
わたしは、日々いろんな葬儀に立ち会います。中には参列者が1人もいないという孤独な葬儀も存在します。そんな葬儀を見ると、わたしは本当に故人が気の毒で仕方がありません。 亡くなられた方には家族もいたでしょうし、友人や仕事仲間もいたことでしょう。なのに、どうしてこの人は1人で旅立たなければならないのかと思います。
もちろん死ぬとき、誰だって1人で死んでゆきます。でも、誰にも見送られずに一人で旅立つのは、あまりにも寂しいではありませんか。故人のことを誰も記憶しなかったとしたら、その人は最初からこの世に存在しなかったのと同じではないでしょうか?
「ヒト」は生物です。「人間」は社会的存在です。「ヒト」は、他者から送られて、そして他者から記憶されて、初めて「人間」になるのではないかと、わたしは思います。
わが社は、「良い人間関係づくりのお手伝いをする」というミッションを掲げています。 ですから、参列者がゼロなどという葬儀など、この世からなくしてしまいたいと考えています。それもあって、「隣人祭り」のお世話もさせていただいています。 隣人祭りは、生きている間の豊かな人間関係に最大の効果をもたらします。
また、人生最後の祭りである「葬祭」にも大きな影響を与えます。隣人祭りで知人や友人が増えれば、当然ながら葬儀のときに見送ってくれる人が多くなるからです。人間はみな平等です。そして、死は最大の平等です。その人がこの世に存在したということを誰かが憶えておいてあげなくてはなりません。親族がいなくて血縁が絶えた人ならば、地縁のある地域の隣人が憶えておいてあげればいいと思います。わたしは、参列者のいない孤独葬などのお世話をさせていただくとき、いつも「もし誰も故人を憶えておく人がいないのなら、われわれが憶えておこうよ」と葬祭スタッフに呼びかけます。でも、本当は同じ土地や町内で暮らして生前のあった近所の方々が故人を思い出してあげるのがよいと思います。そうすれば、故人はどんなに喜んでくれることでしょうか!
「俳聖」と呼ばれた松尾芭蕉に「秋深き隣は何をする人ぞ」という有名な句がありますね。
多くの人は「秋の夜、隣の家の住人たちは何をしているのかなあ」というような意味にとらえているでしょうが、じつはこの句には深い意味があります。芭蕉は、51歳のときにこの句を詠みました。1694年(元禄7年)9月29日のことでしたが、この日の夜は芭蕉最後の俳句会が芝柏亭で開かれることになっていました。しかし、芭蕉は体調が悪いため句会には、参加できないと考えました。そこで、この俳句を書いて送ったそうです。結局これが芭蕉が起きて詠んだ生涯最後の俳句となりました。彼はこの日から命日となる10月12日まで病床に伏せ、ついに一度も起きあがることなく死んでいきました。
さて、「秋深き隣は何をする人ぞ」には「隣」という字が出てきます。
「隣」の字の左にある「こざとへん」は人々の住む「村」を表します。右には「米」「夕」「井」の文字があります。3つとも、人間にとって最重要なものばかりです。それぞれ、「米」は食べ物を、「夕」は人の骨を、「井」は水を中心とした生活の場を表しています。 すなわち、「隣」という字は、同じ村に住む人々が衣食住によって生活を営み、その営みを終えた後は仲間たちによって弔われ、死者となるという意味なのです。そこから、「死者を弔うのは隣人の務めである」といったようなメッセージさえ読み取れます。ということは、「隣」の真の意味を考えれば、くだんの句は次のように解釈できます。 「いよいよ秋も深まりましたね。紅葉は美しく、夜には虫の音も響き渡って、想いが膨らみます。村の皆さんは、何をして秋を楽しむのでしょうか。私は間もなく死んでしまいますが、皆さんはこれからどのような人生を送るのでしょうか。ぜひ、実りのある人生を過ごされることを願っています。それでは、さようなら・・・・・」
この句に「隣」の字を使った芭蕉の心には、単なる惜別のメッセージだけでなく、もっと切実な「人の道」への想いがあったのでしょう。そう、「となりびと」とは「おくりびと」の別名なのです。

一条真也
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