シネマの街を世界へ 『西日本新聞』連載 #005

人生の哀愁がたまらない

松本清張原作の映画

 

北九州ゆかりの昭和の国民的作家である松本清張は、社会派ミステリーの巨匠として知られています。わたしはもともと江戸川乱歩や横溝正史といった怪奇幻想の作風を持った作家の探偵小説が好きで、清張の社会派推理小説はあまり好きではありませんでした。
しかし、年齢を重ねてからは、不倫や汚職、殺人が渦巻く清張ワールドに触れると、ワクワクするようになりました。人生の哀愁が感じられて、たまりません。年輪を刻み、やっと清張の面白さを理解できるようになったようです。
清張の小説を原作とする映画は多いのですが、特にわたしが感動したのが野村芳太郎監督の「砂の器」(1974年)です。作中で登場する豪華俳優陣の名演技には唸りました。わたしが生前に大変お世話になった丹波哲郎さんの熱演は涙なくして見られませんでした。相棒の森田健作さんも素晴らしかったです。
清張原作の映画には多くの女性俳優たちも登場します。「顔」(57年)や「黒の奔流」(72年)の岡田茉莉子さん、「張込み」(58年)の高峰秀子さん、「波の塔」の有馬稲子さん、「ゼロの焦点」(61年)の久我美子さんといった往年の名優たちは、とても美しく魅力的でしたね。
その中で、わたしにとってナンバーワンは岩下志麻さんです。特に「影の車」(70年)や「鬼畜」(78年)に出演している彼女の姿は最高に輝いていました。清張原作の映画では、彼女の女性の女性としての魅力が強調、増幅されて、その妖艶さはハンパではありません。日本映画史上で最も艶っぽい女性俳優だと思います。
清張の小説がすごいのは、今でも映画化やテレビドラマ化されているところです。21世紀に入っても、米倉涼子さん、広末涼子さん、堀北真希さん、武井咲さんといった人気女性俳優が清張ワールドの女主人公を演じてきました。
さて、12月に開催される北九州国際映画祭では「松本清張作品上映会」が予定されているそうです。どの作品がセレクトされるか。今から楽しみです!