シネマの街を世界へ 『西日本新聞』連載 004

大杉漣さんは生きている

グッバイエレジー

 

北九州を舞台にした映画「グッバイエレジー」という作品があります。2018年に、66歳という若さで急逝した名優・大杉漣さん最後の主演作で、北九州オールロケで撮影されました。メガホンをとった三村順一監督は地元(小倉南区)出身で、一連の石原裕次郎主演映画を多く手がけたことで知られる蔵原惟繕監督に師事された方です。
この作品は17年3月に全国公開されたものですが、大杉漣さんが18年2月に急逝された翌月に、小倉昭和館で開催された「大杉漣さんを偲ぶ特別上映会」で観覧しました。故人への想いを綴る記帳コーナーが設けられ、観客全員で献杯も行いました。映画にはわたしの知っている飲食店もたくさん登場し、小倉昭和館も実名で登場します。
中学時代の親友である井川道臣(吉田栄作)の訃報を受け、映画監督の深山晄(大杉漣)が久しぶりに故郷の北九州に帰ってきます。道臣が歩んだ波瀾万丈の人生を知った深山は、その生きざまを映画にしようと脚本の執筆にとりかかる、といったストーリーが展開されていきます。
見終わったときの率直な感想は、「大杉漣さんは生きている!」でした。スクリーンの中の彼は生命感に満ち満ちていました。
そこでぜひ知って欲しいのは、映画を含む動画撮影技術が生まれた根源には人間の「不死への憧れ」がある、という持論です。
どういうことか。映画と写真という2つのメディアを比較してみましょう。
写真は、その瞬間を「封印」するという意味において、一般に「時間を殺す芸術」と呼ばれます。一方で、動画は「時間を生け捕りにする芸術」であると言えるでしょう。「時間を保存する」は、「時間を超越する」ことにつながり、さらには「死すべき運命から自由になる」ことに通じます。写真が「死」のメディアとするならば、映画は「不死」のメディアなのです。
「グッバイエレジー」を見ればいつでも大杉漣さんに会えます。スクリーンの中の大杉さんは、生き続けるのです。