シネマの街を世界へ 『西日本新聞』連載 #011

映画は人の心に力与える

無法松の一生

 

北九州国際映画祭が17日に閉幕しました。「映画の街・北九州」の魅力が国内外に向けて存分に発信され、北九州市民として、そして無類の映画好きとして大変うれしく思います。
さて、8月から連載させていただきました「シネマの街を世界へ!」は今回で最終回となります。最後に紹介するのは、映画祭のオープニング作品で、1943年公開の映画「無法松の一生」(稲垣浩監督)です。わたしも鑑賞しました。
舞台は日露戦争が終わったばかりの明治末期の九州・小倉。けんかっ早く、「無法松」と呼ばれる人力車夫・松五郎(阪東妻三郎)の生き様を、哀切に満ちた心温まるエピソードとともにつづり、理想の女性に対する美しき愛情、男の心情を描く感動作です。
日本映画史に輝く名作で、見どころがたくさんあります。まずは義理人情に厚く、おちゃめなところも垣間見える松五郎の人柄です。きっぷがいい男っぷりは、見ていて、すがすがしい気持ちにさせてくれます。
伝説の映画カメラマン宮川一夫氏の、カメラワークの素晴らしさもあります。終盤、松五郎が祇園太鼓を披露するシーンでは、躍動感のある画面の切り替えで、祇園太鼓の勇壮さを感じることができます。
松五郎が過去を振り返るシーンでは、思い出の映像が何重にもオーバーラップした映像が映し出されます。これは、多重露光という技術が使われており、何とも幻想的でした。
本作は、事前検閲で「亡き軍人の妻への恋慕」などが問題視され、一部をカットして上映されました。戦後には2度目の検閲を連合軍総司令部(GHQ)から受け、一部カットされています。それでも上映時は大ヒットし、小倉が舞台の娯楽映画が、暗い時代の国民に元気を与えたのです。
映画は人の心に力を与えます。監督・脚本・撮影・演出・衣装・音楽・演技が集合した総合芸術を、ぜひ映画館で堪能されてください。いつか、本コラム読者の皆さんと市内の映画館でお会いできるのを楽しみにしています。