シネマの街を世界へ 『西日本新聞』連載 #007

「修活」で輝いた主人公

君は一人ぼっちじゃない

 

「君は一人ぼっちじゃない」という2019年公開の三村順一監督の映画があります。連載4回目に紹介した「グッバイエレジ―」(17年)に続き、2作目のオール北九州ロケ作品です。
スクリーンには、小倉城や勝山公園など小倉のシンボルが次から次に映し出されます。小倉祇園太鼓も登場し、北九州が満載ですが、実はわたしが経営する松柏園ホテルと小倉紫雲閣でもロケがありました。
松柏園ホテルの撮影では、恥ずかしながらわたしが映画初出演を果たしました。単なるエキストラ出演だと思っていたのですが、せりふが与えられました。慌てながらも、ぶっつけ本番で何とか演じ切り、ホッとしたのを覚えています。
映画は小倉市(現北九州市)出身の小説家である岩下俊作(1906~80)の代表作の一つ「富島松五郎伝」が原作の映画「無法松の一生」(1943年、58年)を現代に置き換えたオマージュ作品です。
貧困生活などで将来を悩む主人公の篠崎隼人(土田卓弥)が、人力車夫の小倉屋市五郎(的場浩司)に出会い、すれ違いながらも心を通わせ未来を見出していくストーリーです。
市五郎は、隼人の母で芸者をしている駒子(鶴田真由)とは人力車で送迎する間柄ですが、互いに引かれ合っていきます。そんな市五郎には秘密があり、実はがんに侵されているのです。市五郎は隼人に、自らが憧れる「無法松」の生きざまを教えていきます。このシーンを見たわたしは、市五郎が悔いを残さないように「人生を修めていっている」と感じました。言うなれば「修生活動」=「修活」です。
昨今、終末活動の略語とされる「終活」という言葉が使われていますが、わたしは「修活」を使うようにしています。死は終わりではなく、命や想いは続いていくと考えているからです。
市五郎が憧れた無法松の生きざまは、隼人に引き継がれ、次世代へ続いていく。市五郎の人生は「修活」により、更に美しく輝いたように思うのです。