一条真也の供養論 『終活WEBソナエ』連載 第40回

供養はリーダーの最大の仕事

 日本のリーダーが菅義偉首相から岸田文雄首相に代わった。わずか1年の短期政権に終わった菅内閣は、末期には低い支持率に悩んだ。新型コロナウイルスの感染対策への遅れなどによって、国民の不満が爆発的に高まったせいでもあるが、会見での菅前首相のメッセージが、日本国民の心にまったく届かないという批判も多かった。
 確かに、アメリカのバイデン大統領、イギリスのジョンソン首相、ドイツのメルケル首相といった海外のリーダーたちに比べても、国民への伝え方が弱かったことは事実だろう。
 なぜ、菅前首相の言葉は響かなかったのか。「最大の弱み」とは何だったのか。国民の支持を得るためのリーダーがするべきこととは何か。
  
 コロナ禍のいま、世界中の国家リーダーのスピーチを聴いていると、国民を鼓舞するポジティブ・コミュニケーションよりも、国民の苦悩や悲嘆に寄り添うネガティブ・コミュニケーションの重要性が感じられる。また、国家リーダーにとって、最も重要なミッションは自国の死者に対しての哀悼の意を表することだという。ネガティブ・コミュニケーションというか、グリーフケア的対応が求められるわけである。グリーフケアの必要性は社会全体に浸透しつつあり、社会の持続性に深く関わっているとさえ言えよう。菅政権に不足していたのは、まさにこの視点だった。
 一方、岸田新首相は、10月16日から2日間の日程で、復興状況などを視察するため、首相就任後初めて、東日本大震災で被災した東北地方を訪問した。16日午前には、岩手・陸前高田市にある高田松原津波復興祈念公園を訪問し、東日本大震災による犠牲者に献花し、黙とうを捧げた。
  
 17日には、東京・九段北の靖国神社で始まった秋季例大祭に合わせ、祭具の真榊(まさかき)を奉納した。自身の参拝は見送ったが、これは外交上の影響を回避するとともに、同じ与党内の意見に配慮したのだろう。関係者によると、岸田氏の真榊奉納は初めてだという。安倍晋三元首相や菅義偉前首相の対応を考慮したようである。岸田内閣では、後藤茂之厚生労働相、若宮健嗣万博担当相も真榊を奉納した。
 現職首相の靖国参拝は2013年12月の安倍氏が最後だが、他方、17日は、菅前首相の他、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」を代表して尾辻秀久会長らが参拝している。菅氏は記者団に「ご英霊にみ霊のご冥福をお祈り申し上げた」と語った。やはり、古今東西を見ても、死者への供養はリーダーの最大の仕事であると言えよう。