一条真也の心に残る名言 『リビング北九州』掲載 第22回

「あなたの中には、無限の力が秘められている」空海

言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回は、弘法大師空海の言葉です。昨年末、わたしは『超訳 空海の言葉』(KKベストセラーズ)を上梓しました。

今年は、高野山金剛峯寺開創1200年記念イヤーです。高野山では4月2日から5月21日まで50日の間、空海が残した、大いなる遺産への感謝を込めて、絢爛壮麗な大法会が執り行われます。こうした動きにあわせて、わたしは、難解な空海の言葉の数々を現代人にも容易に読めるように超訳したのです。ちなみに、わたしの家の宗派は真言宗です。

 

空海は傑出した文才で多くの著作を残しましたが、その中でも、わたしが特に注目したのは『十住心論』です。正確には『秘密曼陀羅十住心論』といって、空海の代表的著述です。830年頃、淳和天皇の勅にこたえて真言密教の体系を述べた内容ですが、ヘーゲルの弁証法をも連想させる壮大な思想書となっています。

その『十住心論』には、「あなたの中には、無限の力が秘められている。そのことを忘れてはいけない」という言葉が登場します。この「無限の力」とは、そのまま空海本人に当てはまる言葉でした。

とにかく、空海ほどの超天才はいません。「日本のレオナルド・ダ・ヴィンチ」の異名が示すように、空海は宗教家や能書家にとどまらず、教育・医学・薬学・鉱業・土木・建築・天文学・地質学の知識から書や詩などの文芸に至るまで、実に多才な人物でした。このことも、数多くの伝説を残した一因でしょう。

 

「一言で言いえないくらい非常に豊かな才能を持っており、才能の現れ方が非常に多面的。10人分の一生をまとめて生きた人のような天才である」
これは、ノーベル物理学賞を日本人として初めて受賞した湯川秀樹博士の言葉ですが、空海のマルチ人間ぶりを実に見事に表現しています。

 

神秘と謎の光に包まれ、加持祈祷で有名な宗教家であった空海は、死後「弘法大師」の称号を受けました。そのスケールの巨大さについて、司馬遼太郎は「空海だけが日本の歴史のなかで民族社会的な存在でなく、人類的な存在だったということがいえるのではないか」と、名著『空海の風景』に書いています。密教を通じて、空海はすでに、人間とか人類というものに共通する原理を知ったというのです。至言ですね。