「涙は人間がつくるいちばん小さな海」アンデルセン
言葉には、人生をも変える力があります。
これから毎月、心に残る名言の数々を紹介いたします。第1回目は、「童話の王様」と呼ばれたアンデルセンの言葉です。
わたしには、その名も『涙は世界で一番小さな海』(三五館)という著書があります。その本で、わたしは、ファンタジー作品を愛読していると述べました。中でも、アンデルセン、メーテルリンク、宮沢賢治、サン=テグジュペリの4人の作品には、非常に普遍性の高いメッセージがあふれていると考えています。
ドイツ語の「メルヘン」の語源には「小さな海」という意味があるそうです。大海原から取り出された1滴でありながら、それ自体が小さな海を内包しているのです。
人類の歴史は、いわゆる「四大文明」からはじまりました。その四つの巨大文明は、いずれも大河から生まれました。そして、大事なことは河は必ず海に流れ込むということです。
さらに大事なことは、地球上の海は最終的にすべてつながっているということ。チグリス・ユーフラテス河も、ナイル河も、インダス河も、黄河も、いずれは大海に流れ出るのです。
人類も、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは河の流れとなって大海で合流するのではないでしょうか。人類には、心の大西洋や、心の太平洋があるのではないでしょうか。そして、その大西洋や太平洋の水も究極はつながっているように、人類の心もその奥底でつながっているのではないでしょうか。それがユングのいう「集合的無意識」の本質ではないかと、わたしは考えます。
さて、人間は涙というものを流します。では、どんなときに涙を流すのか。それは、悲しいとき、寂しいとき、つらいときです。また、他人の不幸に共感して同情したとき、感動したとき、そして心の底から幸せを感じたときです。つまり、人間の心はその働きによって、普遍の「小さな海」である涙を生み出すことができるのです。人間の心の力で、人類をつなぐことのできる「小さな海」をつくることができるのです。
アンデルセンは、涙は「世界でいちばん小さな海」だといいました。そして、わたしたちは、自分で小さな海をつくることができます。その小さな海は大きな海につながって、人類の心も深海でつながります。たとえ人類が、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは深海において混ざり合うのだと思います。