技術編 第十講
「読み終える体験」を記憶する
フォトリーディングの使い方
「フォトリーディング」という読書法があります。『本を10倍速く読む方法』で紹介され、同書はベストセラーになりました。
目を写真のごとく使って、ページを1つずつ目に焼き付けていくという方法論です。
同書の訳者でもある神田昌典さんがこういう体験談を話しています。あるとき、武術家の甲野善紀さんと対談する機会があった。そのときに準備の時間がほとんどとれず、1時間で甲野さんの著作を10冊、フォトリーディングで読み、だいたいアウトラインを把握できた、というのです。
そうしたことが本当に可能かどうか、私には理解しかねる部分もあります。すべてを否定することもできないでしょう。
伊東乾氏という、作曲家にして物理学者(しかも東大の准教授!)の異才ですが、この人の著書『「笑う脳」の秘密』(祥伝社)によれば、音楽家が楽譜を完全に覚えられるのは、楽譜の画面全体を写真のように頭に焼きつけるからだそうです。かのトスカーナなどは楽譜の染みまで覚えていたといいますが、このイメージ記憶法はコツさえつかめばだれにでも可能だと伊東氏は述べています。これは、限りなくフォトリーディングに近い記憶法だといえるでしょう。
たとえば、私も出張に出かける前、今読んでいるのが重い本だから、読みきってしまいたいと思って、スピードをあげて読んだりします。すると、どうしても取りこぼす気がします。するのですが、それでも大事な部分は頭に残っています。
フォトリーディングの効用の1つとして、「最後までページを繰る」という行為に慣れることができる点もあげられるでしょう。
読書が苦手な人は、 1冊の本を最後まで読み終えるという体験が少ないものです。内容が難しくて途中で挫折したり、興味がなくなって、いつのまにか読まなくなってしまったり……こうしたことが続くと最後まで読めないのが当たり前、その感覚に慣れてしまいます。
これを払拭するのがフォトリーディングによる「最後までページを繰る」体験です。
どうしても1冊の本を読み終える前に放り出してしまうことが多いという方は、とりあえず、1冊の本を手に取ったら、フォトリーディングの要領で見開きの2ページを視野に入れながら、最後までページを繰ってみてください。内容がわかる・わからないはここはひとまず措きます。
これにより、あなたの脳は「最後までページを繰る」という行為に慣れます。つまり、「読み終える」という体験を脳に記憶させることで、途中でやめるというイメージを振り払うことが可能になるのです。