平成心学塾 読書篇 あらゆる本が面白く読める方法 #009

技術編 第八講

あらゆる本を面白がる技術

 

面白がるにはコツがある

あらゆる分野を面白くすることは可能です。

たとえば、数学にしても、法律でも、実学といわれる無味乾燥だとされるものでも、面白がるコツがあります。それを知ってしまえばいいのです。

では面白がるコツとはなんでしょうか?

なぜ面白くないかを探っていくと、まず「わからない」という事態があることに気がつきます。わからないから面白くない。まあ、当たり前のことですね。

しかし、当たり前のこうしたことが最大の現実でしょう。

最初から出てくる言葉がさっぱりわからない。だから、頭に入らない。読んでいてもつまらない。本を読むのが苦痛になる……わかりやすい構図です。

まず、どんな分野の読書にも共通していえることは、簡単な入門書、基本書から入っていくということです。どれが一番わかりやすいのか、そこをまず選定して、そこから内容が高度なものへシフトしていくのです。

断言しますが、1冊や2冊でその分野をカバーすることはまず不可能です。必ず10冊程度読まなくてはいけません。

ですから、最初はわかりやすいものを入り口にしましょう。入り口でつまづくと、その時点で足を挫いてしまう人もいます。この入り口への入り方を慎重に考えてください。

とくにこのタイミングはあなたの中でその分野に負のイメージのつく前ですから、ここで苦手意識を持ってしまうのは得策ではありません。

といって、変に畏まる必要もないでしょう。まだ、あなたは初心者なのですから、わからなくて当たり前、わからなければわかるように書いてない本が悪いくらいの姿勢でかまいません。

たとえば、法律でいえば、弁護士が登場するミステリーを読むとか、その分野に少しでも近くて、軟らかい本を読むといった工夫をしてみてください。そうした入門書によって、だいたいのアウトラインをマスターして、本編に入るのが王道ではないでしょうか。

あなたがすでに知っていることを人から聞いても面白くないと思います。逆に、あなたが知らないことを聞けば、面白いですよね。本には、あなたの知らないことがたくさん書いてあります。ページを繰って、知らないことに出会うたびに、驚くという習慣をつけてください。そして、それを面白がる習慣をつけてください。

「おっ、こんなこと知らなかったぞ!」「へえー、そうだったんだ!」と、いちいち驚き、面白がってください。新しく得た知識を友人や恋人にも教えてあげてください。そのように考えれば、基本的にすべての本は面白いはずです。

批判を前提としない

極端な話になりますが、世の中の本に最初から最後まで面白くないものなんてない、というのが私の考えです。

すべて読む人の心がけ次第で、役に立つ読書・面白がる読書に変えることはできると思っています。1冊丸ごとすべてが役立つとか面白いというようにするのは不可能です。反対に、どんなにつまらない本でも、少しは知らないことも書いてあるし、良いことも書いてあるものです。つまらないと思って読んでいたら、そうした部分だって見落としてしまいます。何かないか、どこかに書いているはずだと思って、読むことが大事なのです。要するに好意的に読むということなのです。批判を前提として読む読書ほどつまらないものはありませんから。

最近、そんなことが続けてありました。ひとつは、マーケッターの神田昌典氏の『全脳思考』(ダイヤモンド社)という本。

彼の「10年間の集大成」というので、具体的な内容を期待していたのですが、実際は抽象的な話が多く、期待どおりのものではありませんでした。

もうひとつは、放送作家の小山薫堂氏の『人を喜ばせるということ』(中公新書ラクレ)という本。著者は映画「おくりびと」の脚本を書き、日光金谷ホテルのアドバイザーも務めており、「サプライズの達人」として知られているそうです。具体的なサプライズの事例を期待して読んだのですが、スタッフを騙して驚かせるといった、「ドッキリカメラ」まがいの話が多く、こちらも期待とはたがう内容でした。

しかし、『全脳思考』も『人を喜ばせるということ』も最後まで読了しました。

読んですぐに「この本、???」と思ったときでも、私は必ず最後まで読むことにしています。

2冊とも期待にそうものではありませんでしたが、それでも収穫もありました。

『全脳思考』の最後には、今後の社会を読む重要キーワードとして「隣人愛」が出てきました。私もつねづね同じことを考えていたので、大いに共感しました。

『人を喜ばせるということ』には、「自分が死ぬときにも人を驚かせたい」という話が出てきました。たとえば、ハート型の金具を飲めば、火葬場で自分の遺体を焼いたとき、ハートが残る……。たとえば、ある若者を呼んで「君は僕の隠し子なんだ」とささやいて、驚く相手に遺書を渡す。亡くなった後で、遺書を開くと、そこには「ウソだよん」と書いてある。いずれもイタズラですが、著者は「自分が死ぬときに何のサプライズを仕掛けようかと考えていると、不思議と、死ぬのが怖くなくなる」と書いており、これには大いに共感しました。

2冊とも、最後まで読んだからこそ、共感する部分を発見することができた。

基本的に1冊まるごと「はずれ」の本というのは存在せず、どんな本にも1つは学ぶところがあるはずです。