平成心学塾 読書篇 あらゆる本が面白く読める方法 #003

技術編 第二講

著者像をイメージする

 

内容に集中する方法

読書をしていても、内容が頭に入ってこない、という方が結構います。

字面を追いかけているだけで、それが頭に残らないから、読み進んでいるうちに内容を捉えきれなくなって、数ページ前を読み返したりする。また、少し読んでは前に戻っての繰り返し……。これでは効率が悪いだけでなく、集中もできていないことになります。当然、内容が頭に残っているかというと怪しいものです。本を読んでいるときに、ついつい本以外のことに意識がいってしまうのです。電車の中で本を読んでいて、目では字面を追いかけているのに、耳と意識はすべて隣の人の会話に集中している……なんて経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

内容に集中することが重要だとはわかっていながら、意外とこれができないものです。

こんなとき、どうするか?

内容をしっかりつかまえる上で重要なポイントが「著者像をイメージする」ことであることは意外と知られていません。本書の執筆に際し、たくさん読んだ読書論の中にも見られませんでした。

著者像をイメージすることがなぜ内容理解につながるのでしょうか?

想像してみてください。あなたのもとに手紙が届いた。差出人を見ると、中学生の頃に慕って尊敬していた先生からです。イメージするのは、両親や恋人や友人でももちろんかまいません。

あなたのよく知っているその人から届いた手紙の内容はスラスラと頭に入ってくるはずです。なぜなら、あなたは先生の顔や声や話し方までをはっきりとイメージできるため、手紙の書き手を「語り手」として意識できているからです。

だれがあなたに語っているかが明確になると、その内容を捉えるのも容易になります。

プロフィールは添え物ではない

私のやり方はこうです。本を読み始める前、まずプロフィール(著者紹介)を読む。中には写真が載せられているものもあります。姿形がよくて、「ああ、この人がこういうことを言っているわけだな」と思ったり、「なんでこの人、写真載せるんだろう」という方もいますけど、それはここでは関係ありませんね。

プロフィールを読んで、具体的に頭の中にその人を思い描くのです。その著者が目の前にいると想像することが大事です。写真がなく、著者像のイメージがしにくいときには、私は勝手にこんな空想をしてみます。

「この著者は気難しそうな、いかめしい顔をしていて、着流しでやってくるだろう。でも、声はちょっと高めで聞き取りやすい。声には艶があって、聴いていて人を惹きつけるものがある」

「この著者は北海道生まれ、小学校卒業後、国鉄の給仕をして苦労を重ねながら、論語の知識を身につけた頑固親父。本からちょっとでも目を離すと怒鳴られそう」

ちょっと想像が膨らみすぎましたが、こんな具合でいいのです。

たとえば、斎藤孝さんの本を読むときだったら、自分が明治大学に訪ねて行って、喫茶店の窓際の席に陣取って話をしているとか、何でもいいのです。たとえばあなたの部屋にその著者がやってきたといった、なるべくリアルな場所の様子を具体的に考えていけば、臨場感が高まってきます。

著者像を明確にイメージするため、その最高の資料となるのがプロフィールなのです。読むことで著者の像が浮かびあがります。こうなれば内容を理解するための第一歩の準備が整ったと思っていいでしょう。著者はあなただけに訴えかけてきているのです。

プロフィールは添え物とか、著者の自己宣伝だろうくらいに思っている方もいるかもしれませんが、そうではなく、内容へ入っていくための準備に必要な重要アイテムです。

具体的に著者像がイメージできれば、本の内容がたとえ「大学教授によって書かれた小難しいもの」であろうとも、あなたの中で活き活きと輝きだすでしょう。

「そんなことで?」と思っている方は、ぜひ一度だまされたと思って、これまで読んで、「少し難しいな」と思って挫折してしまった本を手にとってください。

【補足可能】

ある著者のことが好きになると、その著者が書く本すべてが面白くなることがありますよね。それは著者自体に関心を持てている状態です。著者に関心を持つというのは、大切な態度です。